司法試験 令和3年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
Xは,腹壁と胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)に用いられる「医療用器具」(以下「X発明」という。)について特許権(以下「X特許権」という。)を有している。X発明は,腹壁と胃壁の縫合を短時間に迅速かつ確実に行うという課題を解決するために,縫合糸を挿入するための針と,これとほぼ平行に設けられた縫合糸を保持するための針とを固定部材により固定する構成(以下「構成要件α」という。)を採用し,2本の針を一体化させ,同時穿刺(注)可能な構造としたことを技術的特徴の一つとする。
Xは,X発明の実施品である医療用器具(以下「X製品」という。)を製造し,販売している。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各設問はそれぞれ独立したものであり,相互に関係はないものとする。
(注)「穿刺」とは,体外から体腔内,血管内,臓器内に針を刺し入れることをいう。
〔設 問〕1.Xは,X発明の特許出願時に,その特許請求の範囲において,構成要件αの針を金属製の針と記載していたが,当該特許出願の願書に添付した明細書には,針の材質に関して,その他の硬い針を用いてもよいことが記載されていた。X特許権については,特許出願から設定登録までの間に補正がされていない。
Aは,樹脂製の針を使用した医療用器具(以下「A製品」という。)を製造し,販売している。A製品は,樹脂製の針を用いている点を除き,X発明の構成要件を全て充足する。X発明の特許出願時において,樹脂製の針が硬い針であることは,X発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって自明であり,また,金属製の針に替えて樹脂製の針を用いてもX発明の作用効果を奏することは,それらの者が容易に想到することができたとする。この場合,Aの行為は,X特許権を侵害するかについて論じなさい。
2.Bは,医療機関からX製品の使用済み品を入手し,X製品を分解し,各部品を洗浄し,再組立てを行い,滅菌処理を施した上で,医療機関に販売している。Bによるこれらの作業の過程では,部品交換は行われていない。一方で,X製品の添付文書には,「再使用禁止」と明記されている。この場合,Bの行為は,X特許権を侵害するかについて論じなさい。
3.Cは,胃壁固定術に用いられる医療用器具(以下「C製品」という。)を製造し,販売している。C製品は,縫合糸を挿入するための針と縫合糸を保持するための針より構成されており,2本の針が固定部材によって一体化されていない点を除いて,X発明の構成要件を全て充足する。しかし,C製品は,使用後,2本の針をまとめて容易かつ安全に廃棄するために,2本の針を一体化して係止する機構(以下「一体化機構」という。)を備えている。C製品の一体化機構は,2本の針をまとめて廃棄するための仮止めにすぎないから,2本の針を一体化機構により係止した状態のC製品を一体化同時穿刺に使用すると,穿刺する力が2本の針に均等に伝わらず,針先が曲がり,臓器を損傷する危険性がある。ゆえに,C製品の添付文書においても,使用上の注意として,「一体化させた状態で2本の針を同時に穿刺しないこと。臓器の損傷,誤穿刺や出血の危険性がある。」との記載がなされている。もっとも,C製品の2本の針を一体化機構により係止し,さらに汎用クリップで留めると,係合力が増し,一体化同時穿刺を安全に実施することが可能となる。
Xは,第三者機関に依頼して,C製品の使用状況に関する調査を実施したところ,C製品の使用経験がある医療機関におけるC製品の全使用症例数の3割の症例で汎用クリップを用いた一体化同時穿刺が行われていることが判明した。そこで,Xは,Cに対し,上記調査の結果を摘示した上で,一体化機構により係止し,汎用クリップで留めた状態にあるC製品は,X発明の技術的範囲に属するものであり,その製造,販売はX特許権を侵害するものであるから,それらの行為を止めるように警告した。しかし,CがC製品の製造,販売を継続したため,Xは,Cに対し,差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。
⑴ Xは,C製品の製造及び販売の差止めを請求することができるかについて論じなさい。
⑵ Xは,Cがこれまでに販売したC製品の全数量を対象として特許法第102条第2項を用いて損害額を算定し,損害賠償を請求している。仮にCの行為がX特許権を侵害するとした場合,Xの請求に対するCの反論としてどのような主張が考えられるかについて論じなさい。
〔第2問〕(配点:50)
著名なタレントである甲は,各種エンターテインメント事業を行う会社Aに所属している。Aは,甲をイラスト化した主人公が迷宮を脱出する内容のコンピュータ用ゲームソフト(以下「α」という。)の制作を企画し,そのBGMに,甲が歌唱する代表的な歌曲の楽曲部分(以下「β」という。)を使用することにした。
βは,作曲家である乙がかつてAに依頼されて作曲したものであり,乙の著作の名義の下に公表されたものである。Aは,αの制作に先立ち,乙との間で,βに係る著作権を全部譲り受ける旨の契約を締結した。当該契約においては,著作権法第27条及び第28条に定める著作権も譲渡対象として特掲されている。
その後,Aの従業員がαを完成させ,αはAの著作の名義の下に公表された。Aは,αの複製物の販売を開始した。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.αの制作過程においては,甲を簡略なイラストで表現する作業の参考に資するために,Aの内部で甲の写真撮影が行われた。撮影は,当時Aの従業員であった丙が担当し,丙は,デジタルカメラを用いて,写真の構図,採光,露光,シャッタースピード等を調節して,甲を撮影した。Aは,当該写真とそのデータをαの開発部署の外に持ち出すことを禁じ,また,αの完成後は,直ちにそれらを廃棄することを命じていたが,Aを退職した丙は,その所有するUSBメモリーを用いて当該データを密かに自宅に持ち帰り,不特定多数の者が閲覧できる丙のホームページ上で,当該データを保有している旨及び当該写真を印刷したものの売却に応じる旨を告知した。Aは,丙に対して,著作権に基づいて,当該写真の印刷及び譲渡の差止め並びに当該データの廃棄を請求することができるかについて論じなさい。
2.Bは,中古ゲームソフトの販売を行う会社であり,Aが販売したαの複製物を含む中古ゲームソフトを,自社の店舗内で販売している。
⑴ Aは,Bに対して,αの複製物の販売の差止めを請求することができるかについて論じなさい。
⑵ Bは,中古ゲームソフトの通常の販売に係るサービスと並行して,それとは異なるサービスを「割賦販売サービス」と称して提供しているものとする。当該サービスにおいては,Bの商品である中古ゲームソフトの販売価格の一部に相当する金銭が「頭金」と呼ばれ,客は「頭金」を支払うことで,直ちに商品の引渡しを受けることができ,残額分は引渡しから1週間後に支払えばよいとされていた。また,引渡しから6日以内であれば,客は,「頭金」
の払戻しを受けることはできないが,商品を自由に返品することができ,残額分の支払を免れることもできた。Aは,Bに対して,αの複製物について当該サービスを提供することの差止めを請求することができるかについて論じなさい。
3.数年後,Aは,αの続編に当たるコンピュータ用ゲームソフトの制作を決定し,βを編曲したものを,そのBGMとして使用することにした。Aは,作曲家である丁にβの編曲を依頼し,丁は,もともと落ち着いた曲調であったβをビートの効いたテンポの速い曲調に編曲したβ’を作成した。当該編曲の事実を知った乙は,丁に対して,乙の同一性保持権の侵害を理由とする損害賠償を請求している。乙の請求に対する丁の反論として,どのような主張が考えられるかについて論じなさい。
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