司法試験 令和元年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
食品加工会社Xは,特許請求の範囲に「工程aと工程bを含むことを特徴とする食品中の成分P含有量の測定方法」(以下「本件発明」という。)と記載された特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。成分Pは,一般に健康に良いとされ,従来,食品中の成分P含有量の測定方法としては,工程aのみを含むものが広く使用されていたが,本件発明は,工程bの追加により全体の測定時間を顕著に短縮させたものである。また,本件発明は,Xの研究開発部門に所属していた甲がXにおける勤務時間中にXの施設においてXの資材を用いて完成させたものであり,本件発明完成時点のXの職務発明規程には,職務発明について,その発明が完成した時にXが特許を受ける権利を取得する旨が定められていた。
Xが本件特許権に係る特許出願(以下「本件出願」という。)をした後,甲は,Xを退職し,食品加工,測定機器の製造販売等を業とする会社Yに転職した。その後,Yは,加工食品の製造工程に,本件発明の技術的範囲に属する測定方法(以下「Y方法」という。)を使用して成分P含有量を測定する工程を組み込み,測定の結果,成分P含有量が基準値以上であることを確認した加工食品のみを成分P含有量の豊富な食品である旨を表示して販売している(以下,Y方法による測定を経てYが販売している加工食品を「Y製品」という。)。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各問はそれぞれ独立したものであり,相互に関係はないものとする。
〔設 問〕1.Yは,Xから特許権侵害の警告を受けたため,本件発明の完成の経緯を甲に確認したところ,甲は,上司に反対された研究を甲独自の判断で進める中で本件発明を完成させたのであるから,本件発明の完成はXから期待されておらず,甲が特許を受ける権利を有していると説明した。
そのため,Yは,Y方法の使用を続けたところ,Xは,Yに対して,本件特許権に基づき,Y製品の製造販売の差止め及びY製品の廃棄を求める訴訟を提起した。Xの請求に対するYの考えられる反論とその妥当性について論じなさい。
2.本件出願の特許請求の範囲には,出願当初,「工程aを含むことを特徴とする食品中の成分P含有量の測定方法」(以下「本件当初発明」という。)と記載されており,Xは,本件出願の出願公開後に本件当初発明の内容を記載した書面を提示してYに警告をした。しかし,本件出願前から工程aのみを含む食品中の成分P含有量の測定方法が広く使用されていたことを知るYは,Y方法の使用を続けた。
⑴ 仮にXが本件当初発明について特許権の設定登録を受け,Yに対して出願公開の効果としての補償金の支払を請求した場合,Yは,どのように反論すべきか。
⑵ 特許請求の範囲に本件当初発明が記載された本件出願について拒絶理由通知を受けたXは,特許請求の範囲を本件発明のとおり補正したが,補正後にYに対して再度の警告をしなかった。その後,Xは,本件特許権の設定登録を受け,Yに対して出願公開の効果としての補償金の支払を求める訴訟を提起した。Xの請求に対するYの考えられる反論とその妥当性について論じなさい。
3.Yは,本件発明の実施にのみ用いられる測定機器Mを製造し,それら全てを貿易会社Zに国内で販売している。Zは,それら全てを外国に輸出している。Xは,Yに対して,本件特許権に基づき,Mの製造及び販売の差止めを請求することができるか。
〔第2問〕(配点:50)
仏師X1は,宗教法人Y1寺からの依頼に応じて,青銅製の仏像彫刻作品A一体を作成し,Y1に納めた。Aは,高さ3メートルの仏像で,手脚を含む全身のポーズ,顔の表情,袈裟(着衣)のけ さデザインなどについて仏教美術の仕来りに従いつつも,X1独自の世界観・宗教観を反映した外観の表現αを有している。
Y1は,恒久的に展示・管理するとの条件でX1から許諾を得て,Y1の境内の屋外にAを設置し,門徒や観光客の参拝に供した。Aの姿は公道からは見えないが,毎日午前9時から午後5時までの間は誰でもY1境内に立ち入り,Aを見ることができる。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各問はそれぞれ独立したものであり,相互に関係はないものとする。
〔設 問〕1.仏像彫刻作品Aの外観の表現αの著作物性について,どのような点が問題となり,その点をいかに考えるかを説明しなさい。
また,商品として大量生産され,家庭内の仏壇に設置される,高さ20センチメートルの仏像彫刻Bの外観の表現βの著作物性について,更にどのような点が問題となり,その点をいかに考えるかを説明しなさい。ここで,βはαをそのまま縮小したものであり,両者はその大きさ以外は同一であるものとする。
2.Aが「Y1大仏」と称されて人気を博したため,Y1は,Aの正面写真をその中心に大きく配置した絵はがきPを自ら製造し,観光客に境内で販売するとともに,Y2を含む複数の土産物店にも販売した。次の⑴⑵のそれぞれにおいて,X1は,Y2に対して,著作権に基づき,絵はがきPの販売の差止めを請求することができるか。いずれもαが美術の著作物であり,Aがその原作品であることを前提に説明しなさい。
⑴ 絵はがきPの製造販売についてX1がY1に許諾しておらず,その事情をY2はY1からのPの購入時に知らなかったが,知らないことについて過失があった。その後,X1がY2に対して警告をしたために,Y2は,当該事情を知り,以後はPを購入することをやめたが,現在,それ以前に購入したPを観光客に販売している。
⑵ X1とY1は,X1がY1に絵はがきPの製造販売を許諾し,Y1がX1にPの売上げの5%を支払う旨の契約を締結していたところ,Y1はPの販売後も一切の金銭をX1に支払っていない。Y2は,この不払の事情を知りつつY1からPを購入して観光客に販売している。ここで,X1とY1の間で,Pの製造販売許諾契約は解除されていないものとする。
3.Aの顔つきは怒りを含んだ厳しい表情であるため,Y1の内部では不評であった。そこで,X1の死後すぐに,Y1は,より柔和な表情をした仏頭Cを自ら作り直し,Aの頭部を切り離してCとすげ替えた。ここで,切り離されたAの頭部は,そのまま梱包されてY1内に保管されている。X1の遺族である配偶者X2は,Y1に対して名誉回復等の措置を請求することができるか。αが美術の著作物であり,Aがその原作品であることを前提に説明しなさい。
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