司法試験 平成28年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
X1とX2(以下,併せて「Xら」という。)は,使用されている貸コインロッカーに顧客が誤って硬貨を入れないようにする装置を共同で開発し,その発明について共同で特許出願し,特許権としての登録を得た(以下,この登録された特許を「本件特許」という。)。本件特許の特許請求の範囲は,「鍵を抜き取った状態において硬貨の投入行為を妨げる手段を設けたことを特徴とする貸ロッカーの硬貨誤投入防止装置」という文言からなる。本件特許の明細書の記載及び図面(以下「明細書等」という。)には,鍵の抜き差しに伴って金属製の遮蔽板を回転させ,もって硬貨投入口の開閉を行う旨の具体的な実施例が記載されているが,他には具体的な実施例の記載はない。同実施例では,鍵が抜かれた状態では回転してきた金属製の遮蔽板が硬貨投入口を全体的に塞ぎ,硬貨が入らない構成となっている。Zは,Xらから許諾を受けて本件特許権について通常実施権を有している。
Yは,貸コインロッカーの製造販売をしているが,いずれの貸コインロッカーにも鍵が抜かれた状態では硬貨が投入されないようにした装置が実装されている。その製品には製品Aと製品Bの2種類があり,製品Aは本件特許の実施例とほぼ同じ構成を有しているが,遮蔽板は樹脂製であり,回転するようにはなっておらず,遮蔽板が上下することにより硬貨投入口を開閉する構成となっている。製品Bは,遮蔽板を使うことはなく,鍵が抜かれた状態で硬貨を投入しようとすると警告音が鳴るように構成されている。なお,かかる製品Bの構成は,本件特許の実施例を含む明細書等を読んだだけでは,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に想到し得ないものである。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.Xらは,Yに対して,本件特許権に基づき,製品Aと製品Bの製造販売の差止め及び損害賠償を求める訴訟を共同で提起した。Xらの請求に対するYの考えられる反論とその妥当性について論じなさい。
2.⑴Y は , 前記訴訟が提起された後,本件特許に対する無効審判を請求した。Xらはこれを争ったが,同時に特許請求の範囲を減縮すれば無効理由がなくなるので,これを減縮したいと考えた。Xらは,当該無効審判において,どのような手続をとればよいか論じなさい。また,同様の無効理由についてYが前記訴訟において特許法第104条の3の抗弁を主張している場合,Xらはどのように対抗できるかについて論じなさい。
⑵ ⑴の無効審判請求について, 仮に特許庁が本件特許を無効とする旨の審決を行ったとして,この審決に対してX1のみが単独で審決取消訴訟を提起する場合の問題点について論じなさい。
3.前記訴訟において,Yの製品が本件特許を侵害したとして,Xらの差止請求及び損害賠償請求が認められ,その判決が確定したため,Yは侵害行為を中止し,Xらに対して損害賠償を行った。その後,Yが請求した無効審判により,本件特許を無効とする旨の審決が確定した。
この場合,Yは,Xらに対して支払った損害賠償金を取り戻せるか否かについて論じなさい。
また差止めの効力について論じなさい。
〔第2問〕(配点:50)
作家Xは,米国の作家Aが創作した「Days of the full-scale sprint like a tornado」という題号(以下「題号a」という。)の英語の世界的ベストセラー小説(以下「小説a」という。)につき,Aから日本語に翻訳する権利を得た。小説aは,恵まれない環境に育った少年が苦学を重ね,大企業に入社し,持ち前の馬力と攻撃的性格で並み居るライバルに競り勝ちついに大企業のトップとなるというサクセスストーリーである。Xは小説aを翻訳するに当たり,その大部分は直訳であるものの,日本人には分かりにくい英語の表現や各場面設定につき,独特の意訳をするなど創意工夫を凝らし,その結果,日本語の小説として原作にも負けない流ちょうで生き生きとした表現の小説(以下「小説b」という。)を完成させた。小説bは,題号aを直訳した「竜巻のごとく全力疾走した日々」との日本語の題号(以下「題号b」という。)を付した上,出版された。小説bのブックカバー(以下「ブックカバーb」という。)はXが自ら独自にデザインしたもので,青と白を基調とし,左下から右上に風が吹き抜けるようなしま模様とともに,金色の題号が中央で大きく渦を巻きながら天に昇るように描かれているものであった。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.作家Yは,小説a及び小説bに描かれた内容を批評するとともに同小説の描く世界観を揶揄することを通じて,競争社会のゆがみを風刺する趣旨で,小説a及び小説bの全体の構成,各場面設定及び物語の展開の特色を一見して分かるように残しながら,主人公がライバルとの競争に競り負け最後には挫折するという内容の日本語の小説(以下「小説c」という。 )を書き,これに「つむじ風のごとく疾走して転んだ日々」という題号(以下「題号c」という。)
を付した上,これを自費出版した。ただし,小説cは,小説aの直訳としての日本語の表現において小説bと類似する部分があるものの,小説bでXが創意工夫を凝らした日本語の表現は使用していない。また,小説cのブックカバー(以下「ブックカバーc」という。 )はYが自らデザインしたもので,ブックカバーbの色合い,構図及び文字の配置の特色が一見して分かるように残されており,左下から右上に風が吹き抜けるようなしま模様とともに,灰色の題号が中央で小さく渦を巻きながら徐々に消滅するように描かれていた。
Xは,Yに対し,小説c,題号c及びブックカバーcはXの著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして,小説c,題号c及びブックカバーcの複製・頒布の差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。
Xはどのような主張をすることができるか。これに対するYの反論としてどのような主張が考えられるか。双方の主張の妥当性についても論じなさい。
2.⑴ 事業者Z1は,書籍の購入者の依頼により,同書籍をその購入者のタブレット端末で読めるように電子ファイル化するという有償のサービスを業とする者である。そのサービスの手順は次のとおりである。すなわち,まず,書籍を購入した利用者がZ1に書籍の電子ファイル化を申し込み,自ら購入した書籍をZ1に送付する,次に,Z1はその書籍を裁断して自ら管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化する,そして,Z1は,完成した電子ファイルを記録した電子記憶媒体を裁断した書籍とともに利用者に送付する,というものである。Z1は,上記の手順により,小説bの不特定多数の購入者の依頼に応じて小説bの電子ファイル化を続けている。
⑵ 事業者Z2は,小説bを自ら複数冊購入してそれらを裁断した上で,それを読み込む専用スキャナーが設置されている自社の店舗内の書棚に並べ,小説bを電子ファイル化したい不特定多数の利用者に,店舗外への持ち出しを禁止した上で裁断済みの小説bを貸し出し,それを利用者に上記店舗内のスキャナーで自ら電子ファイル化させ,その電子ファイルを利用者に取得させるという有償のサービスを業として提供している。
Xは,Z1及びZ2に対し,上記⑴及び⑵の行為はそれぞれXの著作権を侵害するものであるとして,それらの行為の差止め及び損害賠償を求める訴訟をそれぞれ提起した。これらの訴訟において,Xはどのような主張をすることができるか。これに対するZ1及びZ2の反論としてどのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
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