司法試験 平成25年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
Yの従業員である甲と乙は,物質Aに物質b1を反応させて化合物Cを生産する方法(以下「方法1」という。)を職務発明として共同で発明した。甲と乙は,Yの職務発明規程に従って,方法1に関する職務発明の特許を受ける権利を,双方同意の上でYに譲渡したが,Yは特許出願をしなかった。しかし,Yは方法1の発明完成の報告を受けて,直ちに秘密裏に方法1の使用による化合物Cの製造を複数の国内工場で開始した。
その後, 乙は, Yを退職してYと競合するXの従業員となり, Xでの研究開発に従事したところ,物質Aに物質b2を反応させて化合物Cを生産する方法(以下「方法2」という。)によると,方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産できることを発見した。そして,乙は,方法2のみならず方法1についても,自分の単独発明としてXに届け出て,両発明の特許を受ける権利をXに譲渡する旨をXと合意した。Xは,特許請求の範囲を「物質Aに物質Bを反応させて化合物Cを生産する方法」(以下 「発明α」 という。) とした特許出願を, 発明者を乙として行った。 その後, Xは,方法1を使用して化合物Cの製造を開始した。なお,物質Bは物質b1と物質b2の両方を含む上位概念であり,明細書には方法1と方法2の実施例がいずれも記載されている。
一方, Xが発明αの特許出願を行った1か月後, Yにおいても独自に方法2が開発され, 直ちに,Yは方法1を使用していた国内工場の生産ラインのうちの一部につき,方法2を使用するように変更して化合物Cの製造を開始した。Yは,以来継続して方法1と方法2の両方法を使用して化合物Cの製造を行っている。
Xは, 発明αについて特許査定を受けて設定登録を得た (以下, この特許を 「本件特許」 という。)
ので,本件特許に基づき,Yに対し,化合物Cの製造行為の差止めを求めて提訴した。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。
〔設 問〕1.本件特許に基づくXの差止請求に対し,方法1と方法2のそれぞれについて,Yはどのような抗弁を主張できるか論ぜよ。
2.設問1で検討したYの抗弁のうち,方法2に関する抗弁に対して,Xはどのような再反論ができるか論ぜよ。
3.Yは,本件特許について,Xに対し特許権の移転請求を行うことができるか,その可否について論ぜよ。また,Yによる特許権の移転請求が認められた場合,Yは本件特許に基づいてXに対し方法1の使用の差止めを請求できるかについても論ぜよ。
【参考】特許法施行規則(昭和35年3月8日通商産業省令第10号)
(特許権の移転の特例)
第40条の2 特許法第74条第1項の規定による特許権の移転の請求は,自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
〔第2問〕(配点:50)
小説家であるAは,古代中国の春秋戦国時代に生きた武将αの数奇な生涯を描いた小説(以下「本件小説」という。)を執筆した。
漫画家であるBは, Aの承諾を得て, 本件小説を原作とした連載漫画 (以下 「本件漫画」 という。)
を執筆した。 その際, Bは, 本件小説に登場する主人公の武将αその他の登場人物の特徴について,本件小説に言語で描かれている特徴を踏まえながらも漫画として描くにふさわしい容姿を自ら考え出し,それぞれが身に着ける甲冑や衣装についても,数々の古代中国の資料を参考にし,さらに漫画としての特徴を出すべく,西洋風の甲冑や衣装の要素も取り入れながら,独自の視点を加味して描いた。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。ただし,著作者人格権について触れる必要はない。
〔設 問〕1.映画製作会社Cは,本件漫画に登場する武将αを主人公としたアニメーションを製作し,それをDVDとして販売したいと考え,この企画をBに持ちかけたところBの承諾を得たので,Aの承諾を得ないまま,同アニメーション(以下「本件アニメ」という。)を製作した。本件アニメは,Bが描いた本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化したものではあるが,その物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であった。
Aは,Cに対して,本件アニメのDVDの製造・販売の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するCの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
2.イベント主催会社Dは,各漫画雑誌に掲載された人気漫画の原画を展示して紹介するイベント(以下「本件イベント」という。)を企画し,その際,所有者の承諾を得て本件漫画の原画を展示する予定であるが,その一方で,A及びBに無断で,展示される武将αが描かれている本件漫画の原画の1枚を, A5版30頁の観覧者向けパンフレット (以下 「本件パンフレット」
という。)において,1頁の約3分の2の大きさで掲載し,それに簡単な解説を付けた上で,これをイベント会場において観覧者に販売しようとしている。
また,Dは,本件イベントの入場前売りチケット(以下「本件チケット」という。 )にも,A及びBに無断で, 本件漫画の原画の1コマを印刷して, これを販売しようとしている。 なお,本件チケットは,上記原画の1コマを除けば,本件イベントの名称,本件イベントの日時場所が記載されているにすぎないものであった。
Bは,Dに対して,本件パンフレット及び本件チケットの販売の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するDの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
3.玩具製造業者Eは,A及びBの承諾を得て,本件漫画の主人公である武将αの小型のプラスチック製人形(以下「本件フィギュア」という。)を製作し,これを大量に販売している。本件フィギュアは,手足の関節が自由に屈折し,付属の甲冑の着せ替えができる高さ8センチメートルほどのおもちゃの人形ではあったが,その模型原型は,武将αの全体像についてEの従業員である造形師が想像力を駆使して造形したものであり,本件漫画では十分に描かれていない前後左右から見た武将αの容姿及び甲冑の立体的形状や色彩,金属としての光沢などがまるで本物のような質感で造形されており,小さいながらも極めて精細かつ色鮮やかで躍動感にあふれる形態のものであった。
菓子製造販売業者Fは,A,B及びEに無断で,自らが製造販売するスナック菓子のおまけとして本件フィギュアを細部まで模倣して小型化した武将αのプラスチック製人形を製造して,これを消費者に提供しようとしている。
E及びBは,Fに対して,上記行為の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するFの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
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