司法試験 令和5年 刑事訴訟法
問題文
(配点:100)
次の【事例】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】1 Vは、令和4年10月25日午前2時頃、H県I市内のV方2階寝室で就寝中、物音に気付いたため、1階リビングルームに行き、照明をつけた。すると、黒のニット帽、黒のマスク、黒のジャンパー、黒の手袋、緑の作業ズボン、黒のスニーカー姿の身長165センチメートルくらいで、小太りの男性(以下「犯人」という。)がタンスを物色していた。犯人がVにつかみかかってきたため、Vが無我夢中で腕を振ったところ、その拳が犯人の鼻の辺りに強く当たった。これに対し、犯人は、その場にあったゴルフクラブを手に取り、Vの左側頭部を1回殴打して、逃走した。Vは、犯人から殴打された左側頭部から出血して、その場に倒れて失神した。その後、覚醒したVは、同日午前2時12分頃、110番通報し、強盗の被害に遭って犯人にゴルフクラブで頭を殴られたこと、犯人はゴルフクラブを持って逃走したと思われること、犯人の着衣や背格好などを伝えた。
H県警察I警察署の司法警察員Pは、同日午前2時18分頃、現場であるV方に臨場し、玄関から1階リビングルームにつながる廊下に足跡があるのを発見した。このとき、Pは、Vがすぐに病院に救急搬送されたため、Vから詳細な被害状況を聞くことができなかった。Pらは、住居侵入・強盗殺人未遂事件(以下「本件事件」という。)として、捜査を開始したが、同現場からは、足跡以外に、犯人の特定につながる証拠を発見することができなかった。
2 その後、Pは、V方付近にあるコンビニエンスストアに設置された防犯カメラの映像に、同日午前2時7分頃、Vが110番通報した際に告げた犯人の着衣や背格好などに酷似した男性が、長い棒状の物を手に持ち北西方向に走っている様子が記録されているのを発見した。また、Pは、同コンビニエンスストアから北西に約1キロメートル離れた場所にあるガソリンスタンドに設置された防犯カメラの映像に、同日午前2時22分頃、マスクは着けておらず、長い棒状の物も持っていなかったものの、前記コンビニエンスストアの防犯カメラの映像に記録されていた男性と酷似した男性が、同ガソリンスタンドの向かいにあるアパートの建物の中に入っていく様子が記録されているのを発見した。Pは、この男性(以下「甲」という。)が本件事件の犯人である可能性が高いと考え、甲の動向を確認するため、同日午前4時頃から同アパート周辺の公道上での張り込みを開始した。
すると、同日午前6時頃、甲が同アパートの建物から出てきて、同アパートの敷地内にあるごみ置場にごみ袋1袋を投棄した。そこで、Pは、同ごみ袋の外観の特徴を公道上から目視して確認した上で、同アパートの敷地と隣接する大家方に赴いた。このとき、Pは、同アパートの所有者である大家から、同アパートでは、居住者に対して、ごみを同ごみ置場に捨てるように指示しており、大家が同ごみ置場のごみの分別を確認し、公道上にある地域のごみ集積所に、ごみ回収日の午前8時頃に搬出することにつき、あらかじめ居住者から了解を得ていることを聞いた。Pは、この日が同ごみ集積所のごみ回収日であったことから、大家と一緒にアパートの敷地内の同ごみ置場に向かい、そこに投棄されていた複数のごみ袋の中から、先ほど特徴を確認しておいたごみ袋1袋だけを選び、大家から任意提出を受けて領置した【捜査①】。
Pは、同ごみ袋をI警察署に持ち帰り、同ごみ袋を開けて内容を確認したところ、黒のスニーカー1足が入っているのを発見した。捜査の結果、同スニーカーの靴底の紋様が、V方廊下に付着していた足跡と矛盾しないものであることが判明した。しかし、同スニーカーは大手ディスカウントショップで大量に販売されていたものであった上、同スニーカーから、犯人の特定につながる証拠を得ることもできなかった。そのため、Pは、この段階では甲の逮捕状を請求することは難しいと考えた。
3 一方で、I警察署の司法警察員らは、犯人の逃走経路と考えられる場所の捜索をしていたところ、同月26日、植え込みの中からゴルフクラブと黒のマスクを発見した。同ゴルフクラブには血液が付着しており、DNA型鑑定により、その血液のDNA型とVのDNA型が一致することが判明した。また、同マスクの内側及び外側にも血液が付着しており、DNA型鑑定により、外側に付着した血液のDNA型とVのDNA型が一致することが判明した。一方、内側に付着した血液については、同マスクが本件事件の凶器であると考えられる同ゴルフクラブと同じ場所に投棄されていたこと、犯人が犯行当日に黒のマスクを着けており、Vの拳が犯人の鼻付近に強く当たったことなどから、犯人の血液である可能性が極めて高いと認められた。もっとも、DNA型鑑定により、そのDNA型は判明したものの、同DNA型は、警察が把握していたDNA型のデータベースには登録されていなかった。
I警察署の司法警察員らは、甲と犯人との同一性を判断するために、甲のDNA型を特定するための証拠を入手したいと考えた。しかし、行動確認の結果、甲方に複数人が出入りしていることが判明していたことから、ごみの中から甲のDNA型を特定するための証拠を入手することが難しい状況であった。そうしたところ、Pは、ボランティアがI市内の公園で開催し、多数の人に食事の提供をしている炊き出しで、甲が食事の提供を受けていることを把握した。
Pは、公園内のごみ箱に甲が投棄した炊き出し用の使い捨て容器を回収することを考えたが、炊き出しの参加者が多く、甲が使用した容器だけを選別することは困難であると思われた。そこで、Pは、同月30日、ボランティアの一員として炊き出しに参加し、容器の裏側にマークを付けて、同容器に豚汁を入れて甲に手渡した。すると、甲は、数人と連れ立って公園を出て公道上に座り込み、当該容器の豚汁を食べ終えると、空の容器を公道上に投棄して、その場を去った。Pは、ボランティアが炊き出しを終えて公園から去った後、公道上に投棄されていた複数の容器の中から前記マークの付いた容器を回収して、これを領置した【捜査②】。
その後、DNA型鑑定により、同容器に付着した唾液から判明した甲のDNA型が、犯人のものである可能性が極めて高い前記DNA型と一致することが判明した。そこで、Pは、甲の逮捕状及び甲方の捜索差押許可状を取得し、同年11月1日、甲を逮捕するとともに、甲方の捜索を実施し、鍵を開けるための特殊な道具(以下「ピッキング用具」という。)を差し押さえた。甲は、逮捕後、本件事件について自白し、同月2日にH地方検察庁の検察官に送致され、同日中に勾留された。
4 I警察署の司法警察員Qは、同月4日、同署において、Vから被害状況を聴取した。Vは、Qに対し、「犯人が、右手でゴルフクラブのグリップを握り、すごい速さでゴルフクラブを斜め上から振り下ろして、私の左側頭部を殴った。」旨供述し、その旨の警察官面前調書が作成された。
5 Qは、同月5日、I警察署において、甲の取調べを行った。甲は、Qに対し、窃盗目的で、施錠されていたV方玄関ドアの特殊な錠をピッキング用具で解錠して室内に侵入し、タンスを物色するなどしたが、Vに発見されたため、逮捕を免れる目的でVの頭部をゴルフクラブで殴打した旨供述し、その旨の警察官面前調書が作成された。そこで、Qは、甲方から押収されたピッキング用具と同種のもの及び本件犯行時にV方に設置されていた錠と同種の特殊な錠を準備し、同日、同署において、甲に対し、「この道具を使って、この錠を開けられますか。」と尋ねた。甲は、随時説明しながらピッキング用具を使って解錠した。後日、Qは、その解錠の状況につき、【実況見分調書①】を作成した。同調書には、甲が解錠している前記状況を連続して撮影した写真が複数枚添付されており、これらの写真の下に、それぞれ「被疑者は、『このように、ピッキング用具を鍵穴に入れてこうして動かしていくと解錠できます。』と説明した。」との記載があった。また、甲が解錠された後の錠を指さしている場面の写真1枚が添付されており、その下に「被疑者は、『このように解錠できました。』と説明した。」との記載があった。ところが、その後、甲は、取調べにおいて、黙秘に転じた。
6 H地方検察庁の検察官Rは、同月8日、同検察庁において、Vから被害状況を聴取したところ、Qに対して供述した内容と同様の説明をしたため、その旨の検察官面前調書を作成するとともに、同日、同検察庁において、Vを立会人とした実況見分を実施した。その際、Rは、前記ゴルフクラブと同種のものを準備し、検察事務官Sを犯人に見立て、Vに対し、被害状況について説明を求めつつ再現させた上、その再現状況を写真撮影した。後日、Rは、この結果につき、【実況見分調書②】を作成した。同調書には、Sが右手でゴルフクラブのグリップを握り、Vの左側頭部を目掛けて振り下ろしている場面の写真1枚が添付されており、その下に「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」との記載があった。
7 同月20日、甲は、住居侵入・強盗殺人未遂罪によりH地方裁判所に起訴された。
同被告事件は、裁判所の決定により、公判前整理手続に付された。同手続の中で、公判立会検察官Tは、前記【実況見分調書①】につき、立証趣旨を「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」として、証拠調べの請求をした。また、Tは、前記Vの検察官面前調書につき、立証趣旨を「被害状況」とし、前記【実況見分調書②】につき、立証趣旨を「被害再現状況」として、それぞれ証拠調べの請求をした。
これに対し、甲の弁護人は、「犯人性を争う。」と主張し、いずれの証拠についても不同意とした。
その後、Vは、公判前整理手続が終了する前に交通事故により死亡した。
〔設問1〕下線部の【捜査①】及び【捜査②】の領置の適法性について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕【実況見分調書①】及び【実況見分調書②】の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし、【捜査①】及び【捜査②】の適否が与える影響については論じなくてよい。
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