司法試験 令和元年 刑事訴訟法
問題文
[刑事系科目]〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】1 平成31年2月1日,G市内の路上において,徒歩で通行中のV(70歳,女性)が,原動機付自転車に乗った犯人からバッグを引っ張られて路上に転倒し,バッグを奪われた上,同月2日,被害時に頭部を路上に強打した際に生じた脳挫傷により死亡する強盗致死事件が発生した(以下「本件強盗致死事件」という。)。Vは,被害直後,臨場した警察官に対し,「バッグに50万円を入れていた。犯人は,ナンバーが『G市(ひらがなは不明)1234』で黒色の原動機付自転車に乗っていた。」旨供述した。
2 司法警察員P及びQが本件強盗致死事件について捜査した結果,上記ナンバーに合致する黒色の原動機付自転車は,甲(23歳,男性)名義のもののほか2台あることが判明した。そこで,Pらが甲について捜査したところ,甲は,アパートで単身生活していること,平成30年12月末にX社を退職した後は無職であったこと,平成31年2月1日における甲名義の銀行口座の残高は1万円であったものの,同月2日に甲が同口座に現金30万円を入金したことが判明したが,甲方アパート駐輪場には甲名義の原動機付自転車は見当たらなかった。
Pは,本件強盗致死事件で甲を逮捕するには証拠が不十分であるため,何か別の犯罪の嫌疑がないかと考え,X社社長から聴取したところ,同社長から,「甲は,売掛金の集金及び経理業務を担当していたが,平成30年11月20日に顧客Aから集金した3万円を着服したことが発覚して同年末に退職した。」旨の供述が得られた。そこで,Pは,同社長に対し,甲による現金3万円の業務上横領の被害届を出すよう求めたが,同社長は,被害額が少額であることや世間体を気にして,被害届の提出を渋ったため,Pは,繰り返し説得を続け,同社長から被害届の提出を受けた(以下「本件業務上横領事件」という。)。
3 その後,Pらは,本件業務上横領事件の捜査を行い,上記内容のX社社長の供述調書のほか,「平成30年11月20日,自宅に集金に来た甲に3万円を渡した。領収書は捨ててしまった。」
旨のAの供述調書や,Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿類は見当たらなかった旨の捜査報告書等を疎明資料として,甲に対する逮捕状の発付を受け,①平成31年2月28日,甲を本件業務上横領の被疑事実で通常逮捕した。同年3月1日,検察官Rは,同事実で甲の勾留を請求し,同日,甲は,同事実で勾留された。甲は,PやRによる弁解録取手続や裁判官による勾留質問において,「平成30年11月20日にAから集金したかどうかは覚えていない。」旨供述した。なお,甲の送致に先立ち,Rは,Pから,甲に本件強盗致死事件の嫌疑がある旨を聞き,同事件での逮捕も視野に入れて,両事件の捜査を並行して行うこととした。
平成31年3月2日以降の捜査経過は,以下のとおりである(なお,その概要は,資料1記載のとおり。)。
4 Pは,同月2日,3日及び5日,本件業務上横領事件について甲を取り調べたが,甲は,前同様の供述を繰り返した。また,同月4日から6日にかけて,Pは,甲に対し,任意の取調べとして行う旨を説明した上で本件強盗致死事件について取り調べたが,甲は,「やっていない。平成31年2月1日に何をしていたか覚えていない。」旨の供述に終始した。
また,Qは,同年3月2日から6日にかけて,本件業務上横領事件及び本件強盗致死事件に関する捜査として,甲の周辺者から聞き込みを行うとともに,逮捕時に押収した甲のスマートフォンに保存されたメール等を精査した結果,甲は,平成30年秋頃,Yから借金の返済を迫られていたこと,同年11月23日にYと待ち合わせる約束をしていたことが判明した。そこで,Qは,本件業務上横領事件の犯行日の特定や被害金額の裏付けとしてYの取調べが必要と考え,Yに連絡したが,Yの出張等の都合により,平成31年3月16日にYを取り調べることとなった。
同月7日,Rが本件業務上横領事件について甲を取り調べたところ,甲は,「事件当日は,終日,パチンコ店のH店かI店にいたような気もする。」旨供述したことから,Rは,Pらに対し,同店での裏付け捜査を指示した。
そこで,Qは,同月8日から10日にかけて,H店及びI店において裏付け捜査したところ,H店では,防犯カメラ画像で犯行日に甲が来店していないことが確認できたが,I店では,防犯カメラが同月14日まで修理中だったため,修理後にその画像を確認することとなった。
他方,Pは,同月8日から10日にかけて,連日,本件強盗致死事件について甲を取り調べたが,甲は前同様の供述を繰り返して否認し続けた。
Rは,更に本件業務上横領事件の捜査が必要と判断し,同月10日,甲の勾留期間の延長を請求し,勾留期間は,同月20日まで延長された。
5 同月11日及び12日,Qが,Aの供述を客観的に裏付けるため,甲がX社の業務で使用していた甲所有のパソコンのデータを精査したところ,金額の記載はないものの,A宛ての平成30年11月20日付け領収書のデータが発見された。そこで,Pは,平成31年3月13日,取調べにおいて同データについて追及したが,甲は,「日付はとりあえず記入しただけで,その日にA方に行ったかは分からない。」旨供述した。
また,同月14日,Qが,I店の防犯カメラ画像を確認したところ,犯行日に甲が来店していないことが判明した。そこで,Pは,同月15日,取調べにおいてH店等での裏付け捜査を踏まえて追及したところ,甲は,「平成30年11月20日にAから集金したが,金額はよく覚えていない。」旨供述した。
平成31年3月16日,QがYを取り調べたところ,Yが,「甲に10万円を貸していたが,平成30年11月23日に3万円の返済を受けた。その後,甲は,金がないと言っていたのに,平成31年2月初め頃だったと思うが,『臨時収入があったから金を返す。』と電話をかけてきて,甲から7万円の返済を受けた。」旨供述したため,Qは,その旨の供述調書を作成した。
その後,RがYに確認したところ,返済日及び金額を記載した手帳があることが判明した。そこで,Rは,同年3月19日,Yの持参した手帳を確認しながらYを取り調べ,Yが,甲から平成30年11月23日に3万円,平成31年2月6日に7万円の返済を受けた旨の供述調書を作成した。
Yの上記取調べに引き続き,Rが本件業務上横領事件について甲を取り調べたところ,甲が,「平成30年11月20日にAから3万円を集金し,これを自分のものとした。その3万円はYへの借金返済に充てた。」旨供述したため,Rは,その旨の供述調書を作成した。
6 一方,Qは,平成31年3月15日,甲の家賃の支払状況等についてアパートの大家を取り調べ,平成30年12月以降家賃を滞納していた甲が,平成31年2月2日に2か月分の家賃として10万円を支払った旨の供述調書を作成した。
また,同年3月17日,Qが,甲の周辺者から,甲名義の原動機付自転車の所在について聞き込みをした結果,甲が,同年2月初旬に同原動機付自転車を知人に1万円で売却したことが判明した。
Pは,同年3月11日,12日,14日及び16日から18日まで,本件強盗致死事件について甲を取り調べた。Pは,X社を退職した後の生活費等の入手先や,同年2月1日の行動について追及したが,甲は,「どの店かは忘れたが,パチンコで勝った金で生活していた。」「2月1日は何をしていたか覚えていない。」旨の供述を繰り返し,同年3月17日まで否認し続けた。しかし,同月18日,甲は,Pから,家賃の支払状況や銀行口座への30万円の入金について追及されたのを契機に,本件強盗致死事件に及んだ旨自白したため,Pは,その旨の供述調書を作成した。
7 Rは,同月20日,甲を本件業務上横領の事実でG地方裁判所に公判請求した(公訴事実は資料2記載の公訴事実1のとおり。)。
8 その後,甲は,本件強盗致死の被疑事実で逮捕,勾留され,Rは,同年4月16日,甲を本件強盗致死の事実でG地方裁判所に公判請求した。同裁判所は,本件強盗致死事件と本件業務上横領事件を併合して審理することとし,公判前整理手続に付した。公判前整理手続の結果,各公訴事実に争いはなく,量刑のみが争点とされたほか,本件業務上横領事件も裁判員裁判で審理されることを考慮し,X社社長及びAの証人尋問を実施することが決定された。なお,公判前整理手続において,弁護人から,甲の集金権限に関する主張はなかった。
しかし,公判期日において,同社長は,「これまで警察官及び検察官に話していなかったが,よく思い出してみると,甲が無断欠勤するようになったので集金等の業務を任せられないと考え,別の部署に異動させたので,平成30年11月20日当時,甲には集金権限がなかった。急な異動のため,甲が担当していたAなどのお客様への連絡が遅くなってしまった。」旨証言した。また,Aは,「平成30年11月20日に集金に来たのは甲である。当時,甲に集金権限がないことは知らなかった。甲は,いつものように,『集金に来ました。合計で3万円です。』と言ったので,甲がX社の集金担当者だと思い,X社への支払として3万円を甲に渡した。」旨証言した。さらに,甲は,被告人質問において,「確かに,平成30年11月20日当時集金権限はなく,それは分かっていたが,とにかく金が欲しかった。」旨供述した。
その後,検察官は,②資料2記載の公訴事実2のとおり訴因変更する旨請求した。なお,検察官及び弁護人から追加の証拠調べ請求はなかった。
〔設問1〕 下線部①の逮捕,勾留及びこれに引き続く平成31年3月20日までの身体拘束の適法性について,1 具体的事実を摘示しつつ,論じなさい。
2 1とは異なる結論を導く理論構成を想定し,具体的事実を摘示しつつ,論じなさい。なお,その際,これを採用しない理由についても言及すること。
〔設問2〕 下線部②の訴因変更の請求について,裁判所はこれを許可すべきか。公判前整理手続を経ていることを踏まえつつ,論じなさい。
資料1本件業務上横領事件 本件強盗致死事件 本件業務上横領事件 本件強盗致死事件2日 3時間3日 3時間4日 5時間5日 2時間 2時間6日 3時間7日 3時間8日 3時間9日 2時間10日 3時間11日 5時間12日 5時間13日 3時間14日 3時間 I店への裏付け捜査15日 3時間 大家の取調べ16日 3時間17日 3時間 原動機付自転車に関する捜査18日 3時間19日 3時間20日合計時間 20時間 40時間年月日(平成31年3月)
Yの取調べ本件業務上横領事件で公判請求甲の取調べ時間 その他の捜査スマートフォンのデータ精査周辺者への聞き込みH店及びI店への裏付け捜査パソコンデータ精査Yの取調べ資料2公訴事実1被告人は,X社に勤務し,同社の売掛金の集金業務等に従事していたものであるが,平成30年11月20日,同社の顧客であるAから売掛金の集金として受け取った現金3万円を同社のため業務上預かり保管中,同日,G市J町1番地所在のA方付近において,自己の用途に使う目的で,着服して横領したものである。
公訴事実2被告人は,平成30年11月20日,G市J町1番地所在のA方において,X社の顧客であるAに対し,真実は被告人に同社の売掛金を集金する権限がないのに,これがあるように装い,「集金に来ました。合計で3万円です。」などとうそを言い,Aをその旨誤信させ,よって,同日,同所において,同人から現金3万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させたものである。
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