司法試験 平成27年 刑事訴訟法
問題文
[刑事系科目]〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】1 平成27年2月4日午前10時頃, L県M市内のV (65歳の女性) 方に電話がかかり, Vは,電話の相手から,「母さん,俺だよ。先物取引に手を出したら大損をしてしまった。それで,会社の金に手を付けてしまい,それが上司にばれてしまった。今日中にその穴埋めをしないと,警察に通報されて逮捕されてしまう。母さん,助けて。上司と電話を代わるよ。」と言われ,次の電話の相手からは,「息子さんの上司です。息子さんが我が社の金を使い込んでしまいました。
金額は500万円です。このままでは警察に通報せざるを得ません。そうなると,息子さんはクビですし,横領罪で逮捕されます。ただ,今日中に穴埋めをしてもらえれば,私の一存で穏便に済ませることができます。息子さんの代わりに500万円を用意していただけますか。私の携帯電話の番号を教えるので,500万円を用意したら,私に電話を下さい。M駅前まで,私の部下を受取に行かせます。」と言われた。Vは,息子とその上司からの電話だと思い込み,電話の相手から求められるまま,500万円を用意してM駅前に持参することにした。
Vは,最寄りの銀行に赴き,窓口で自己名義の預金口座から現金500万円を払い戻そうとしたが,銀行員の通報により駆けつけた司法警察員Pらの説得を受け,直接息子と連絡を取った結果,何者かがVの息子に成り済ましてVから現金をだまし取ろうとしていることが判明した。
2 Pらは,Vを被害者とする詐欺未遂事件として捜査を開始し,犯人を検挙するため,Vには引き続きだまされているふりをしてもらい,犯人をM駅前に誘い出すことにした。
同日午後2時頃,M駅前に甲が現れ,Vから現金を受け取ろうとしたことから,あらかじめ付近に張り込んでいたPらは,甲を,Vに対する詐欺未遂の現行犯人として逮捕した。
3甲 は , 「知らない男から,『謝礼を支払うので,自分の代わりに荷物を受け取ってほしい。』と頼まれたことから,これを引き受けたが,詐欺とは知らなかった。」と供述し,詐欺未遂の被疑事実を否認した。
甲は,同月6日,L地方検察庁検察官に送致されて引き続き勾留されたが,その後も同様の供述を続けて被疑事実を否認した。
逮捕時,甲は同人名義の携帯電話機を所持していたことから,その通話記録について捜査した結果,逮捕前に甲が乙と頻繁に通話をし,逮捕後も乙から頻繁に着信があったことが判明した。
そこで,Pらは,乙が共犯者ではないかと疑い,乙について捜査した結果,乙が,L県N市内のFマンション5階501号室に一人で居住し,仕事はしておらず,最近は外出を控え,周囲を警戒していることが判明したことから,Pらは,一層その疑いを強めた。
そこで,Pらは,乙方の隣室であるFマンション502号室が空室であったことから,同月12日,同室を賃借して引渡しを受け,同室にPらが待機して乙の動静を探ることにした。
4 同月13日,Pが,Fマンション502号室ベランダに出た際,乙も,乙方ベランダに出て来て,携帯電話で通話を始めた。その声は,仕切り板を隔てたPにも聞こえたことから,Pは,同502号室ベランダにおいて,①ICレコーダを使用して,約3分間にわたり,この乙の会話を録音した。その際,「甲が逮捕されました。どうしますか。」という乙の声がPにも聞こえ,同レコーダにも録音されたが,電話の相手の声は,Pには聞こえず,同レコーダにも録音されていなかった。
このように,乙が本件に関与し,他に共犯者がいることがうかがわれ,乙がこの者と連絡を取っていることから,Pらは,同502号室の居室の壁越しに乙方の居室内の音声を聞き取ろうとしたが,壁に耳を当てても音声は聞こえなかった。そこで,Pらは,隣室と接する壁の振動を増幅させて音声として聞き取り可能にする機器(以下「本件機器」という。)を使用することにし,本件機器を同502号室の居室の壁の表面に貼り付けると,本件機器を介して乙方の居室内の音声を鮮明に聞き取ることができた。そして,Pらは,同月15日,②約10時間にわたり,本件機器を介して乙方の居室内の音声を聞き取りつつ,本件機器に接続したICレコーダにその音声を継続して録音した。しかし,このようにして聴取・録音された内容は,時折,乙が詐欺とはおよそ関係のない話をしているにすぎないものであったことから,これ以後,Pらは本件機器を使用しなかった。
5 甲は,司法警察員Qによる取調べを受けていたが,前記のとおり,否認を続けていた。Qは,同月16日, L地方検察庁において, 検察官Rと今後の捜査方針を打ち合わせた際, Rから,「この種の詐欺は上位者を処罰しなければ根絶できないが,今のままでは乙を逮捕することもできない。甲が見え透いた虚偽の弁解をやめ,素直に共犯者についても洗いざらいしゃべって自供し,改悛の情を示せば, 本件は未遂に終わっていることから, 起訴猶予処分にしてやってよい。 甲に,そのことをよく分からせ,率直に真相を自供することを勧めるように。」と言われた。そこで,Qは,同日,甲を取り調べ,甲に対し,「共犯者は乙ではないのか。検察官は君が見え透いたうそを言っていると思っているが,改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っているので,共犯者が誰かも含めて正直に話した方が良い。」と言って自白を促した。これを聞いて,甲は,自己が不起訴処分になることを期待して,Qに対し,「それなら本当のことを話します。詐欺であることは分かっていました。共犯者は乙です。乙から誘われ,昨年12月頃から逮捕されるまで,同じような詐欺を繰り返しやりました。役割は決まっており,乙が相手に電話をかける役であり,私は現金を受け取る役でした。電話の声は,乙の一人二役でした。他に共犯者がいるかどうか,私には分かりません。昨年までは痴漢の示談金名目で100万円を受け取っていましたが,今年になってから,現金を受け取る名目を変えるように乙から指示され,使い込んだ会社の金を穴埋めする名目で500万円を受け取るようになりました。詐欺の拠点は,M市内のGマンション1003号室です。」と供述して自白した。
そこで,Pは,前記甲の自白に基づき,Vに対する詐欺未遂の被疑事実で乙の逮捕状,Gマンション1003号室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け,同月18日,乙を通常逮捕し,また,同1003号室の捜索を実施したが,同室は既にもぬけの殻となっており,証拠物を押収することはできなかった。
乙は,同日,逮捕後の取調べにおいて,甲の供述内容を知らされなかったものの,甲が自白したと察して,「甲が自白したのでしょうから話します。私が電話をかけてVをだまし,甲に現金を受け取りに行かせました。しかし,甲が逮捕されてしまったので,Gマンション1003号室から撤退しました。ほとぼりが冷めたら再開するつもりでしたので,詐欺で使った道具は,M市内のHマンション705号室に隠してあります。」と供述した。乙は,同月19日,L地方検察庁検察官に送致されて引き続き勾留された。
6 Pは,前記乙の供述に基づき,Vに対する詐欺未遂の被疑事実でHマンション705号室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け, 同月19日, 同室において, 捜索差押えを実施した。
同室からは,架空人名義の携帯電話機,Vの住所・氏名・電話番号が掲載された名簿などのほか,次のような文書1通(以下「本件文書」という。)及びメモ紙1枚(以下「本件メモ」という。)が差し押さえられた。
本件文書の記載内容は,【資料1】 のとおりであり, パソコンで作成されているが,右上の 「0XX-XXXX-5678」という記載は手書き文字である。この手書き文字は,V方の電話番号と一致し, また, 筆跡鑑定の結果, 乙の筆跡であることが判明した。 さらに, 本件文書からは,丙の指紋が検出された。
本件メモの記載内容は,【資料2】のとおりであり,全ての記載が手書き文字である。これらの文字は,筆跡鑑定の結果,いずれも乙の筆跡であることが判明した。
7 このように,本件文書から丙の指紋が検出されたほか,乙が逮捕時に所持していた同人名義の携帯電話の通話記録について捜査した結果,Pが同月13日にFマンション502号室のベランダで乙の会話を聴取・録音したのと同じ時刻に,乙が丙に電話をかけていることが判明した。そこで,Pは,これらに基づき,Vに対する詐欺未遂の被疑事実で丙の逮捕状の発付を受け,同月21日,丙を通常逮捕した。
丙は,逮捕後の取調べにおいて,「全く身に覚えがない。」と供述し,同月22日,L地方検察庁検察官に送致されて引き続き勾留されたが,その後も同様の供述を続けて一貫して被疑事実を否認した。
乙は,同月23日,Rによる取調べにおいて,「私は,甲と一緒になってVから現金500万円をだまし取ろうとしました。私が電話をかける役であり,甲が現金を受け取る役でした。昨年12月頃から同じような詐欺を繰り返しやりました。」 と供述したものの, 丙の関与については,「丙のことは一切話したくありません。」と供述し,本件文書については,「これは,だます方法のマニュアルです。このマニュアルに沿って電話で話して相手をだましていました。右上の手書き文字は,私がVに電話をかけた際に,その電話番号を記載したものです。このマニュアルは,私が作成したものではなく,他の人から渡されたものです。しかし,誰から渡されたかは話したくありません。このマニュアルに丙の指紋が付いていたようですが,丙のことは話したくありません。」と供述し,本件メモについては,「私が書いたものですが,何について書いたものかは話したくありません。」と供述した。そこで,Rは,これらの乙の供述を録取し,末尾に本件文書及び本件メモの各写しを添付して検察官調書1通 (以下 「本件検察官調書」 という。)を作 成し ,乙の署名・指印を得た。なお,乙は,丙の関与並びに本件文書及び本件メモについて,その後も同様の供述を続けた。
8 Rは,甲については,延長された勾留期間の満了日である同月25日,釈放して起訴猶予処分とし,乙及び丙については,乙の延長された勾留期間の満了日である同年3月10日,両名を,甲,乙及び丙3名の共謀によるVに対する詐欺未遂の公訴事実でL地方裁判所に公判請求し,その後,乙と丙の弁論は分離されることになった。
9 同年4月17日の丙の第1回公判において,丙は, 「身に覚えがありません。」と陳述して公訴事実を否認し,丙の弁護人は,本件検察官調書について,「添付文書を含め,不同意ないし取調べに異議あり。」との証拠意見を述べたことから,Rは,丙と乙との共謀を立証するため,乙の証人尋問を請求するとともに,③本件文書及び本件メモについても証拠調べを請求した。丙の弁護人は,本件文書及び本件メモについて,「不同意ないし取調べに異議あり。」との証拠意見を述べた。
同年5月8日の丙の第2回公判において,乙の証人尋問が実施され,乙は,丙の関与並びに本件文書及び本件メモについて,本件検察官調書の記載と同様の供述をした。
〔設問1〕 ①及び②で行われたそれぞれの捜査の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕 ③で証拠調べ請求された本件文書及び本件メモのそれぞれの証拠能力について,証拠収集上の問題点を検討し,かつ,想定される具体的な要証事実を検討して論じなさい。
〔母さん/父さん〕,俺だよ。
先物取引に手を出したら大損をしてしまった。
それで,会社の金に手を付けてしまい,それが上司にばれてしまった。
今日中にその穴埋めをしないと,警察に通報されて逮捕されてしまう。
上司と電話を代わる。
息子さんの上司です。
息子さんが我が社の金を使い込んでしまいました。
金額は500万円です。
このままでは警察に通報せざるを得ません。
そうなると,息子さんはクビですし,横領罪で逮捕されます。
しかし,今日中に穴埋めをしてもらえれば,私の一存で穏便に済ませることができます。
息子さんの代わりに500万円を用意してもらえますか。
私の携帯電話の番号を教えるので,500万円を用意したら,私に電話をください。
〔 〕まで,私の部下を受け取りに行かせます。
1/5 丙からtel
金額は500万円
マニュアルは用意する
先物取引で会社の金を使いこんだことにする
【資料1】0XX-XXXX-5678先物取引息子上司※ 受取役は,警察に捕まった場合,「知らない男から,『謝礼を支払うので,自分の代わりに荷物
を受け取ってほしい。』と頼まれて引き受けただけで,詐欺とは知らなかった。」と言い張ること。
【資料2】
チカンの示談金はもうからないのでやめる
出題の趣旨・AI採点はスタンダードプラン会員向けです。
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