司法試験 令和5年 刑法
問題文
(配点:100)
以下の【事例1】から【事例3】までを読んで、後記〔設問1〕から〔設問3〕までについて、答えなさい。
【事例1】1 甲は、乙及び丙と共に、後記計画に基づき、常習的に高齢者から現金をだまし取っていた。
その計画は、
・ 甲が資産家の名簿を見て、現金をだまし取る対象者を選定する。
・ 甲が警察官に成りすまして相手方に電話をかけ、「X警察署の○○です。この度、この地域を担当することになりました。今後、当署からの連絡はこの番号からかけますので、御登録をお願いします。」などとうそを言って、名前と電話番号を告げる(以下、この内容の電話を「1回目の電話」という。)。
・ その翌日、甲が相手方に電話をかけ、「昨日電話した○○です。あなたの預金口座が、不正に利用されている疑いがあります。捜査のために必要なので、お持ちの預金口座に100万円を超える残高があるようでしたら、速やかに全額を引き出して自宅に持ち帰った後、こちらに電話をください。」などとうそを言う(以下、この内容の電話を「2回目の電話」という。)。
・ 相手方に預金口座から現金を引き出させて、自宅にその現金を持ち帰らせる。
・ その後、相手方からかかってきた電話で、甲が、相手方の現金引出しを確認した上、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言う。
・ その約1時間後、乙及び丙が警察官を装って相手方の家を訪ねる。
・ 乙及び丙が、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言い、その交付を受けて現金をだまし取る。
というものであった。
2 甲らは、上記計画に従い、以下の行為に及んだ。
① 甲は、某月1日、名簿から現金をだまし取る対象者として高齢の男性Aを選んだ。
② 甲は、同日午前10時、Aに1回目の電話をかけた。
③ 甲は、同月2日午前10時、Aに2回目の電話をかけた。
④ 甲のうそを信用したAは、預金口座から200万円を引き出して自宅に持ち帰った。
⑤ 甲は、同日正午、Aからかかってきた電話に出て、Aが200万円を引き出したことを確認した上、Aに対し、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言った。
⑥ 乙及び丙は、甲の指示に基づき、同日午後1時、警察官を装ってA宅を訪ねた。
しかし、乙らの姿を見て不審に思ったAが玄関ドアを開けなかったため、乙及び丙は、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言うことができないまま、Aから現金をだまし取ることを断念した。
〔設問1〕 【事例1】におけるAに対する甲の罪責に関し、以下の⑴及び⑵について、答えなさい。なお、⑴及び⑵のいずれについても、自らの見解を問うものではない。
⑴ 甲に詐欺未遂罪の成立を認める立場から、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか。詐欺罪が「人を欺いて財物を交付させ」るという手段・態様を限定した犯罪であるのに、その実行の着手に「現金の交付を求める文言を述べること」を要しないと考える理由に触れつつ論じなさい。
⑵ ⑴の説明に基づくと、上記①~⑥のうちどの時点で実行の着手を認めることになるのか。具体的事実に即して、それより前の時点との実質的相違を明らかにしつつ論じなさい。
【事例2】(【事例1】の1の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)
3 甲は、上記計画に従い、某月5日午前10時、名簿から現金をだまし取る対象者として高齢で一人暮らしの男性Bを選んだ上、Bに1回目の電話をかけ、さらに、同月6日午前10時、2回目の電話をかけた。Bは、甲のうそを信用し、同日午前10時30分、預金口座から300万円を引き出して自宅に持ち帰った。甲は、同日正午、Bからかかってきた電話で、Bが300万円を引き出して自宅に持ち帰った旨を聞いたことから、「これから警察官がそちらに向かいます。」
とうそを言い、Bは「分かりました。待っています。」と答えた。甲は、乙及び丙に対し、高齢で一人暮らしの男性Bがうそを信用し、300万円を自宅に用意している旨を告げ、計画どおり、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言って、300万円をだまし取ってくるように指示し、乙及び丙はこれを了承した。
4 乙は、甲の上記指示を受け、丙と共にB宅に向かうことにしたが、その道中で、Bを縛り上げてしまえば、より確実に現金を手に入れることができると考え、丙に対し、「ジジイをだますより、縛った方が確実に金を奪える。縛って、金を奪ってしまおうぜ。奪った300万円を3人で分ければ問題ないだろう。」などと言い、丙はこれを了承した。そして、乙及び丙は、Bの手足を縛るためのロープと口を塞ぐための粘着テープを準備した上、同日午後1時、B宅へ赴き、インターホンを鳴らして警察官であることを告げ、Bに玄関ドアを開けさせた。乙及び丙は、直ちにB宅内に押し入り、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで塞ぎ、Bを床の上に倒した。そして、リビングルームに移動した乙及び丙は、Bが預金口座から引き出してテーブル上に置いていた上記300万円を見付け、同日午後1時10分、同300万円を持ってB宅を出た。その後、乙及び丙は、甲に対し、いつもどおりのやり方でBから300万円をだまし取ってきたと虚偽の報告をし、それぞれ100万円ずつ山分けした。
5 同日午後3時、Bの娘CがB宅を訪れ、緊縛されたBを発見した。Cから上記ロープ及び粘着テープを取り外してもらったBは、立ち上がろうとしたものの、長時間の緊縛による足のしびれでふらついて倒れそうになった。そのため、Cは、Bを座らせ、そのままでいるように言った。
Bは、それにもかかわらず、その1分後、Cがその場を離れた隙に、奪われた物の有無を確認するために立ち上がろうとした。その際、Bは、まだ上記足のしびれが残っていたために、転倒して床に頭を打ち付け、全治2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。
〔設問2〕 【事例2】における甲、乙及び丙の罪責について、論じなさい(住居等侵入罪(刑法第130条)及び特別法違反の点は除く。)。
【事例3】(【事例2】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)
6 Y警察署の警察官Dは、【事例2】に係る事件につき、乙に対する逮捕状を取得し、乙の逮捕に向かったところ、乙が細い路地を丁と共に歩いているのを発見した。Dは、逮捕のため、乙に接近しようとしたが、それに気付いた乙が走って逃げ出したため、急いで乙を追おうとした。丁は、乙が警察官に逮捕されそうになっていることを察し、乙を逃がそうと考え、怒号しながら両手を広げて立ちはだかり、道を塞いだ。そのため、Dは、直ちに乙を追い掛けることができず、乙を逮捕することができなかった。
7 その後、Dは、Y警察署の警察官5名に乙を追跡して逮捕するよう応援を要請した。丁は、警察官による乙の逮捕を妨害しようと考え、Y警察署に電話をかけ、「Y署近くの路上で、通り魔に刺されました。すぐに来てください。」などとうそを言った。そのため、上記警察官5名は、更なる通り魔事件発生への警戒等を行わざるを得なくなった結果、乙を追跡できず、乙を逮捕することができなかった。
〔設問3〕 【事例3】における前記6の事実につき、丁に業務妨害罪の成立を否定しつつ(丁による怒号などは、公務執行妨害罪における暴行・脅迫には当たらないが、業務妨害罪における威力には当たることを前提とする。)、前記7の事実につき、丁に上記警察官5名に対する業務妨害罪の成立を肯定する立場からは、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか、論じなさい。なお、自らの見解を問うものではない。
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