司法試験 令和3年 刑法
問題文
[刑事系科目]〔第1問〕(配点:100)
以下の【事例1】及び【事例2】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕について,答えなさい。
【事例1】1 甲及びその後輩の乙は,それぞれ金に困り,2人で腕時計販売店に押し入って腕時計を強奪しようと計画していた。甲は,腕時計販売を業とするA株式会社(以下「A社」という。)が直営するB腕時計店(以下「B店」という。)で働いている親友の丙に対し,警備体制に関する情報の提供など上記計画への協力を求めた。
2 丙は,B店の副店長として自ら接客に従事するほか,アルバイトの採用や従業員の勤怠状況の管理を行い,B店の帳簿作成や売上金管理等の業務も担当していた。売上金管理業務として,丙には,各営業日の閉店後,当日の売上金額をA社本社に報告することのほか,各営業日の開店前に,前日の売上金をA社名義の預金口座に入金することが義務付けられていた。また,商品の仕入れ,店外への持ち出し及び価格設定について,丙に権限はなく,全て店長Cの承認を得る必要があるとされていた。
B店の売場に陳列されている商品は,ショーケース内に保管されていたが,その陳列方法は全て丙が決定していた。このショーケースは,接客に必要なときを除いて常時施錠され,その鍵は,C及び丙のみが所持していた。また,B店の売場及び従業員控室には,複数の防犯カメラが設置され,その様子が常時くまなく音声付きで撮影録画されていたほか,警備会社を通じ,警察に非常事態の発生を知らせるための押しボタン式通報システムも設置されていた。
3 金に困っていた丙は,甲からの話を聞いて,いっそのことB店の腕時計が強奪されたように装い,これを自分たちのものにしようと思い付き,某月1日,甲に対し,前記2の事実関係を説明した上,「午前11時の開店時は,普段だとめったに客も来ないし,明後日は俺しかいないから,その時,店に来て刃物を出して,ショーケースを開けろと言ってくれ。俺は後で怪しまれないように拒むふりをするけど,最後はショーケースを開けるから,すぐに時計を持って行ってくれ。
ただ,俺も通報しないわけにはいかないので,急いで逃げろよ。時計は後で分けよう。それと,会ったことのない乙は信用できないから,今の話は内緒にしてくれ。」と持ち掛けたところ,これを甲は承諾した。
4 甲は,同月2日,丙と内通している事実を秘したまま,乙に対し,「明日,俺がB店の開店と同時に中に入って店員に刃物を突き付けて時計を奪い取ってくる。その間,お前は近くに停めた車で周囲を見張り,俺が戻って来たらすぐに車を出してくれ。帰ってから時計を分けよう。」と持ち掛けたところ,これを乙は承諾した。
5 甲は,同月3日午前10時59分,乙の運転する自動車でB店前路上に到着し,同日午前11時,その開店と同時に,覆面をかぶり,サバイバルナイフ(刃体の長さ約20センチメートル。
以下「本件ナイフ」という。)及びボストンバッグ(以下「本件バッグ」という。)を持って同車から降り,B店に向かった。
甲は,B店内に入ると,丙に対し,本件ナイフを示し,「殺されたくなかったら,これに時計を入れろ。」と言い,ショーケース内に陳列されている腕時計を本件バッグに入れるように要求した。これに対し,丙は,前記通報システムを作動させ,甲に対し,「通報したから警察が来るぞ。」と言い,上記要求を拒否するふりをしたので,甲は,丙に対し,「いいからやれ。刺すぞ。」と語気を強めて言った。その直後,丙は,ショーケースを解錠し,その中にあった腕時計100点(時価合計3000万円相当)を甲から受け取った本件バッグに入れ,これを甲に差し出した。甲は,同日午前11時3分,本件バッグを丙から受け取ると,B店内から出て前記車両に乗り込み,乙の運転する同車で逃走した。
乙は,甲が前記車両を降りてから戻って来るまでの間,通行人が甲を警戒したり,警察官らが駆けつけたりする様子があれば,これを甲に知らせるつもりで,同車運転席から周囲を見張っていた。
6 甲は,同日,乙に対し,その取り分として前記腕時計100点のうち20点(時価合計400万円相当)を手渡し,さらに,同月4日,丙に対し,その取り分として残りの腕時計のうち40点(時価合計1300万円相当。以下「本件腕時計40点」という。)が入った本件バッグを手渡した。
7 丙は,同月5日,本件バッグを交際中の丁の自宅に隠すこととし,これをその押し入れ内にしまうと,丁に対し,「バッグの中は見るな。しばらく預かっておいてくれ。」と言った。これに従い,丁は,本件バッグを押し入れ内に放置していたが,同月10日,片付けのため本件バッグを手に持った際,想像以上の重量であったので,不審に思い,その中を見たところ,本件腕時計40点を発見した。その時,丁は,本件腕時計40点全てに値札が付いていたことから,丙が自分のものにするためにB店から無断で持ち出した商品であろうと認識したが,丙のために,本件バッグを預かり続けることとし,これを元の位置に戻した。丁は,同月25日に本件バッグを丙に返すまでの間,これを押し入れ内に置き続けた。
〔設問1〕 【事例1】における甲,乙,丙及び丁の罪責について,論じなさい(住居等侵入罪(刑法第130条)及び特別法違反の点は除く。)。
【事例2】(【事例1】の事実に続けて,以下の事実があったものとする。)
8 乙は,甲から受け取った腕時計20点を換金したが,浪費して再び金に困り,同月30日午後7時,甲に電話を掛け,「時計をもっと分けてください。」などと執ように迫った。甲は,当時,自宅で丙と飲酒中であったが,乙の態度を面倒に感じ,酒の勢いもあって,「実は,B店の店員と通じてやったんだ。今も一緒に飲んでいる。残りは俺とそいつで半分ずつに分けたから,お前にやる分はもうない。」と言った。これを聞いた乙は,興奮し,「そんなのうそでしょ。」と言った。甲は,「うそだと思うなら,うちに来いよ。」と言い,電話を切った。甲は,乙の態度に立腹し,丙に状況を説明した上,「乙は生意気だから,懲らしめてやろう。多少怪我をさせても構わない。俺が木刀で殴ってやる。その時,乙を押さえていてくれ。」と言ったところ,最初は嫌がっていた丙も,最終的にはそれに応じた。
9 甲は,自宅物置内から木刀を持ち出し,丙と共に自宅前で乙を待っていたところ,同日午後8時,乙が到着するや否や,丙が背後から乙を羽交い締めにした。甲は,「お前,調子に乗るなよ。」と言い,乙の頭部を木刀で1回殴った。すると,乙は,「やめてください。やめてくれないなら,全部警察にばらしますよ。」と言い出した。乙の発言について,甲は,乙の真意でないと考えたが,丙は,そのように考えず,乙に暴行を加え続けて警察に真相を話すのを思いとどまらせようと考え,「もっと痛い目に遭わないと分からないのか。」と言い,乙の顔面や腹部を手拳で多数回殴った。
これを見た甲は,丙の余りの勢いに驚き,丙に対し,「乙が警察にばらすはずはない。落ち着け。」と言い,丙をいさめて暴行を終了させようとした。しかし,丙は,暴行を提案した甲から止められたことに立腹し,甲の頭部を手拳で殴ったところ,転倒した甲が頭部を路面に打ち付けて気絶した。丙は,そのことを認識しつつ,この機会に,乙に暴行を加えて警察に真相を話さないと約束させようと考え,同日午後8時5分,甲から取り上げた木刀で乙の頭部を1回殴ったところ,乙は逃げ出した。
10 乙は,全治約3週間を要する頭部裂傷のほか,全治約1週間を要する顔面打撲及び腹部打撲の傷害を負った。そのうち全治約3週間を要する頭部裂傷の傷害は,甲又は丙の木刀による殴打行為のいずれか一方だけによって形成されたことは明らかであるが,いずれの殴打行為から形成されたものか不明であった。
〔設問2〕 【事例2】における甲の罪責に関し,以下の⑴及び⑵について,答えなさい。なお,⑴及び⑵のいずれについても,自らの見解を問うものではない。
⑴ 甲は乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負わないとの立場からは,その結論を導くために,どのような説明が考えられるか。論点ごとに論拠を示しつつ説明すること。
⑵ 甲は乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負うとの立場からは,前記⑴の説明に対し,どのような反論が考えられるか。論点ごとに論拠を示しつつ反論すること。
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