司法試験 平成28年 民事訴訟法
問題文
[民事系科目]〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:3:4〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事 例】Xは, 設立後約30年が経つ「甲街振興会」 という名称の法人格を取得していない団体であり,その代表者である会長は甲街の有力者であるZが務めていた。Xには規約が定められており,甲街で事業を営む者が,Xに書面で加入申請をすれば,Xの会員となるとされている。会員数は近年は100名程度で推移しており,会員名簿は毎年作成されているが,団体の運営に実質的な関心のない者も少なくない。総会員で構成する総会(定足数は総会員の過半数)があるほか,役員として,会長1名,副会長1名,監事2名が置かれている。役員は総会で選任され,会長がXを代表する権限を有するが,不動産など重要な財産の処分については総会の承認決議が必要とされ,出席者の3分の2以上の賛成が必要となる。
Xには,唯一の不動産として,Xの事務所として使用されている建物及びその敷地である土地(以下「本件不動産」という。)があるとされていた。これは,Xの活動が軌道に乗った頃,会長であるZがAとの間で売買契約を締結して購入したものであるが,Zは, 「これはXのために購入したものであり,以後,本件不動産はXの事務所として使用する。」と公言していた。実際に,本件不動産はXの資産としてXの財産目録には計上されていたが,登記は代表者であるZの名義とされていた。本件不動産の固定資産税はZが納付していたが,Xは納税相当額をZに償還していた。
近年になり,長らくXの会長を務めていたZが高齢になってきたため,Xの内部においては,そろそろ会長を副会長であるBに交代すべきであると主張する勢力が台頭しつつあった。
そのような中,本件不動産についてYを抵当権者とする抵当権設定登記がされていることが判明した。Bが調査をしたところによると,この抵当権は,Zの子であるCに対する貸金3000万円を被担保債権とするものであり,Cは貸金債務の返済をしばしば遅滞していて,なお2000万円以上の債務が残存していることが分かった。そこで,Bは,Zに対して経緯の説明を求めた。 これに対し, Zは, 本件不動産はXの事務所として使用するために購入したものではあるが,飽くまでも,事務所として利用させることだけが目的であり,その所有権はZ個人にあると主張した。さらに,一時期Cが貸金債務の返済を滞らせていたことがあるが,もう心配はないし,今後とも本件不動産をXに使用させるつもりであると説明した。
しかし,Bの調査によれば,Zの説明とは異なって,Cはその事業が行き詰まっているため,倒産しかねない状況にあるとの風評が立っており,ZがCを経済的に支えることも困難であろうと見込まれていた。
また,Bとしては,Zから何度となく本件不動産はXのために購入したものであると聞かされていたし,そのようなZの貢献が会員に評価されていたからこそ,Zは長年にわたり会長を務めることになったのであるから,本件不動産はXがAから購入したものであって,Zの所有であったと認めることはできないし,今後の活動資金の確保の観点からも,本件不動産はXにとって極めて重要な財産であり,何としても,Yの抵当権設定登記を抹消しなければならないと考えた。
そこで,Bは,Xの規約によれば,会長は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」
には総会の決議によって解任することができるとされていることを確認した上で,規約に基づき臨時総会を開催し,Zの解任議案及びBの会長選任議案を提出した。
臨時総会の開催や運営に当たっては,Zやその支援者らの強い抵抗があったものの,両議案はいずれも賛成多数で可決された。
そこで,新たに会長に選任されたBは,本件不動産の問題を解決するため,知り合いの弁護士であるL1に相談した。
以下は,Bから依頼を受けた弁護士L1と司法修習生P1との間の会話である。
L1:Bから事情を聞きましたが,Yに対しては,抵当権設定登記の抹消登記手続請求と総有権確認請求をすることになりそうですね。Zに対しても訴えを提起する必要があるかどうかは,もう少しZの動向を見てから決めたいというのがBの意向のようですから,まずは,Yを被告として,どのような訴え提起の方法が考えられるかを検討してみましょう。
P1:Xは,権利能力のない社団とされる要件を満たしているといえそうですから,民事訴訟法第29条が適用され,当事者能力が認められるので,X自身が原告となってYに対する訴えを提起することができると思います。その先は,登記手続請求訴訟になると,十分に勉強が進んでいませんので,よく分からないのですが。
L1:差し当たり,議論を単純化するために登記請求については考えることとせず,総有権確認請求訴訟を前提として議論しましょう。
P1:総有権確認請求訴訟の提起ということになると,最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁によれば,権利能力のない社団が原告となり,その代表者が不動産についての総有権確認請求訴訟を追行するには,その規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するとされています。したがって,本件不動産の総有権の確認を求めるためには,少なくとも,重要な財産の処分についての承認決議に必要な総会の出席者の3分の2以上の賛成に基づく授権が必要ということになりそうです。
L1:そうですね。ただ,Zの立場を支持する勢力もなお有力のようで,今後の動向によっては,3分の2以上の賛成を得ることは簡単ではないかもしれません。3分の2以上の賛成を得ることができないことも想定すると,他にどのような方法が考えられますか。
P1:その場合には,一般的には,構成員全員が原告となって訴えを提起することになるのではないでしょうか。
L1:しかし,本件では,構成員の中にはZやその支持勢力がおり,彼らは訴えの提起に反対するかもしれません。そういった場合には,どのような対応策が考えられるか,検討する必要がありますね。
そこで,まずは,X自体を当事者とせずXの構成員がYに対して総有権の確認を求めるには,原則としてその全員が原告とならなければならないとされる理由について整理してください。
その上で,構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策について検討してください。
さらに,訴訟係属後に甲街で事業を開始して新たに構成員となる者が現れる可能性があります。そこで,この場合の訴訟上の問題点について,まとめてみてください。その際は,その者がBに同調する場合としない場合とが考えられることを考慮してください。
〔設問1〕あなたが司法修習生P1であるとして,L1から与えられた課題に答えなさい。
【事 例(続き) 】BとL1は,検討を重ねた結果,Xを原告,YとZを被告として総有権確認請求の訴えを提起することとし,それと併せて登記手続請求の訴えも提起するとの結論に至った。そこで,本件不動産はXの構成員の総有に属するとして,Xを原告とし,YとZとを共同被告として,本件不動産の総有権確認請求の訴えを提起し,併せてYに対しては抵当権設定登記の抹消登記手続請求の訴えを,Zに対してはZから現在の代表者であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えを提起した。 なお, Bは, 他の会員を説得し, 事前にこれらの訴え (以下, これらの訴えに係る訴訟を 「第1訴訟」という。)の提起のために必要となる総会の承認決議を得た。
以下は,このような経緯で訴えを提起されたZから訴訟委任を受けた弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。なお,Xが原告となって登記手続請求の訴えを提起することの当否について検討する必要はない。
L2:Zは,そもそも,Z自身がXの会長の地位にあるのに,Bが会長であるかのように行動していることに不満があるようです。自らがXの会長の地位にあることを裁判で認めてもらいたいという要望は何とかして受け止めてあげたいですね。第1訴訟において,Bを代表者として提起された訴えの適法性自体を争い,却下判決を求めることは当然ですが,それに加えて,第1訴訟の中で,自らが会長の地位にあることや解任決議が無効であることを確定させる判決を得ることができないかも検討した方がいいでしょう。
もっとも,X内部での会長の選解任がいかなる場合に無効となるのかという実体的な問題については,ひとまず,解任事由が存在しないというZの言い分どおりの事実が認められれば,解任決議は無効となり,そうであるとすれば,規約上1名に限られる会長が既に存在する状況でされた新会長の選任決議も無効となる,という前提で検討を進めてみてください。
P2:分かりました。Zとしては,Zの解任決議が無効であること,及びZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えを提起することが考えられ,その場合,Xを被告とすることが適当であると思います。そして,第1訴訟の中で,Zが会長の地位にあり,自らの解任決議は無効であることを主張するわけですから,反訴として提起することが簡便だと思います。
L2:そうですね。Zが,第1訴訟においてXを被告として反訴を提起するという前提で検討しましょうか。それから,Zの提起する反訴において,会長としての地位が争われることになるBがXの代表者として訴訟を追行す ることを認めてよいかという問題もありそうですが,差し当たり,この点は検討の対象から除外します。
P2:分かりました。
L2:検討をするに当たって1点確認をしておきたいのですが,本案の前提として判断される手続的事項については,独自の訴えの利益は認められないという考え方を聞いたことはありませんか。
P2:はい。そう言えば,最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・民集7巻13号1644頁も,訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としていたと思います。本件では,会長の地位にあるかどうかが争われているので,利益状況は似ているようにも思います。Zが提起する反訴も却下されてしまう可能性があるのでしょうか。
L2:少なくとも,そういう反論に備えておく必要はあるでしょうね。以上のことを踏まえた上で,Zが解任決議が無効であることやZがXの会長の地位にあることを確認する訴えを提起することについて訴えの利益が認められるという理由付けを具体的にまとめてみてください。それから,反訴として提起するということですから,民事訴訟法第146条第1項所定の要件についての検討も念のために行っておいてください。
〔設問2〕あなたが司法修習生P2であるとして,L2から与えられた課題に答えなさい。
【事 例(続き) 】第1訴訟について審理がされた結果,XのYとZに対する請求はいずれも認容され,判決(以下「前訴判決」という。)は確定した。前訴判決の確定を受け,Yは,本件不動産について設定を受けていた抵当権は無効であり,損害を被ったなどとして,Zに対して,債務不履行に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。この訴訟(以下「第2訴訟」という。)において,Zは,「Aから本件不動産を買い受けたのは自分であり,抵当権設定契約時にも本件不動産を所有していたからYに対しても抵当権を有効に設定していて,登記も具備させたのであるから,債務不履行はない。」と主張した。
これに対し,Yは,「前訴判決において本件不動産がXの構成員の総有に属することが確認された以上,Zは,本件不動産はXの構成員の総有に属さず,Zの個人財産に属したと主張して損害賠償責任を免れることはできない,そうでなければ,Yは,第1訴訟においては本件不動産はXの構成員の総有に属するという理由で敗訴し,他方,第2訴訟においては本件不動産はZの個人財産に属するという相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負うことになってしまい,不当である。」と主張した。
以下は,第2訴訟の審理を担当する裁判官Jと司法修習生P3との間でされた会話である。
J:本件はいろいろと問題がありそうですね。本件では,YはZに対して不法行為ではなく,債務不履行に基づいて損害賠償請求をしていますね。そもそも,本件のような事案において,債務不履行に基づく損害賠償請求が実体法上可能か否か等についても学説は分かれているようですが,私としては,抵当権設定契約の時において設定者が抵当権の目的物の所有権を有していなければ有効な抵当権を設定できず,その場合には,設定者は抵当権設定契約に基づく債務不履行責任を負うと理解したいと考えています。以下では,この理解を前提に民事訴訟法上の問題について検討してもらいます。相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負わされるのは不当であるというYの主張は,既判力と関係しそうですから,裁判所の方でよく検討をしておかないといけませんね。前訴判決の既判力によってこの問題を解決することができるかどうかについては,どう考えますか。
P3:本件の事実関係を前提とすると,前訴判決のうちXのYに対する総有権確認請求についてされた部分の効力がXの構成員の一人であるZにも及んでいると解する余地があるのではないでしょうか。
J:なるほど。①権利能力のない社団が当事者として受けた判決の効力は,当該社団の構成員全員に対して及ぶと述べる最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁があることは承知していますが,それを本件において援用することが適切かという点については,具体的に検討してみる必要があると思います。
P3:他方で,仮に前訴判決の既判力がZに及ぶことになるとしても,それが第2訴訟においてどのような意味を持つのか,今一つはっきりしないような気がします。
J:②確かに,本件不動産がXの構成員の総有に属していればZの所有には属しないということは,一物一権主義から当然にいえそうではありますが,しかし,前訴判決の既判力がいつの時点における権利関係の存否について生じているのかということとの関係で,第2訴訟におけるYとZの主張の対立点に関して前訴判決の既判力が作用し得るのかは,私も少し引っかかっているところなので,具体的に検討してみてください。
P3:既判力に基づく説明以外の説明によってYの主張を根拠付ける余地もあるかもしれませんが,そういった検討も必要でしょうか。
J:③それも検討していただきたいですね。ただ,既判力以外の根拠を用いようとする場合には,第1訴訟の段階でYとして採るべき何らかの手段があったのであれば,それをしなかったYが不利益を被ってもやむを得ないという反論も出てくるかもしれません。結論を限定するわけではありませんが,第1訴訟の段階でYとして採るべき手段があったかどうかという点にも触れながら,検討してみてください。
P3:なかなか大変な検討になりそうです。
J:前訴判決が存在するにもかかわらず,第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて審理・判断をすることができるのかを検討することが今回の課題です。なお,検討事項も多いので,差し当たり,前訴判決のうち登記手続請求についてされた部分を考慮に入れる必要はありません。では,頑張ってください。
〔設問3〕あなたが司法修習生P3であるとして,下線部分①から③までに現れたJの問題意識についての検討結果を示しつつ,Jから与えられた課題に答えなさい。
出題の趣旨・AI採点はスタンダードプラン会員向けです。
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