司法試験 令和3年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,和食器の製造・販売を業とする株式会社であり,取締役会及び監査役を置いているが,会社法上の公開会社ではなく,平成28年3月31日現在,資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万円であった。甲社の取締役は,Aほか3名であり,Aが代表取締役を務めている。
甲社の和食器は,伝統美の中に現代的なテイストを取り入れる点が評価され,人気が高まっていたが,甲社は,厳格な品質管理体制を有し,信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅持していた。
2.高級食器の販売を業とする乙株式会社(取締役会を設置しておらず,株主はBのみである。以下「乙社」という。)の代表取締役Bは,Aに対し,甲社の和食器を販売させてほしいと再三申し入れていたが,断られていた。
3.Aは,平成28年5月頃,Bに対し,「私個人でレストランを開業するので,下見に同行してほしい。」と頼んだ。Aは,同行したBに対し,「レストランでは甲社の和食器を利用するので,気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか。」と持ち掛けるとともに,「この計画の実現には5000万円資金が足りない。」と漏らした。Bは,これを機に甲社との取引関係を深めようと思い,前記1の事項を含む甲社の財務状況の概要をAに確認した上で,乙社としてAに5000万円を融資することとし,Aに対し,「我が社にお任せください。ただ,個人に事業上の融資をした実績がないので,甲社の連帯保証を付けてください。」と述べたところ,Aは,「分かった。」と答えた。Bは,後日,Aに対し,「連帯保証についての甲社の取締役会の議事録の写しをもらえれば,すぐに融資できます。」と述べた。
4.このレストラン業は,Aが甲社の事業として提案したところ,採算がとれる見通しがないことを理由に他の取締役らに反対されたものであった。このような経緯から,Aは,甲社が連帯保証することについて,他の取締役らの賛成を得ることはできないと考え,取締役会の議事録の写しではなく,甲社代表取締役A名義でAの乙社に対する債務を連帯保証することについて取締役会の承認がある旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これをBに交付することとした。
5.Aは,平成28年5月25日,Bに対し,「社内規定により,取締役会の議事録は金融機関以外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述べて,本件確認書を交付した。しかし,Aの言う社内規定は存在しなかった。Bは,Aが知名度の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし,甲社の和食器を取り扱うことによる利益が期待できる一方で,自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを強く求めれば,Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え,これ以上の確認をせず,乙社内で必要な手続を経た。
6.Aは,平成28年6月1日,乙社から5000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約(利息は,年1%として1年ごとに後払いとするものとされ,最後の利息と元本の返済期日は,平成31年(令和元年)9月30日とされた。)を締結するとともに,甲社取締役会の承認を受けないまま,甲社を代表して,書面により,乙社との間でAの乙社に対する前記金銭消費貸借契約に基づく債務を連帯して保証する旨の合意をした(以下「本件連帯保証契約」という。)。なお,Aから甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。
7.Aは,乙社に対し,1年目の利息は支払ったものの,その後の支払を怠り,返済期日に元本の返済もしなかった。そこで,乙社は,令和元年10月頃,甲社に対し,本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行を請求したが,これにより,本件連帯保証契約の存在を甲社の他の取締役らが知ることとなった。
〔設問1〕 乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むために甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
8.甲社の設立当時の株主名簿上の株主及びその保有株式数は,Aの父親であるCが10万株,Aの祖母でありCの母親でもあるDが20万株,甲社の仕入先であり創業資金を出資した丙株式会社(以下「丙社」という。)が10万株であった。甲社では,平成24年6月開催の定時株主総会の決議を経て新たに10万株(以下「本件株式」という。)が発行され,本件株式の株主名簿上の株主はAであった。なお,甲社は,株券発行会社でも種類株式発行会社でもない。
9.本件株式が発行された経緯は,次のとおりであった。すなわち,Aは,平成24年3月頃,甲社の代表取締役であったCの要請に従い,家業である甲社を継ぐため,大学卒業後に就職した会社を辞めて実家に戻ることとした。Cは,実家に戻ったAに対し,次の株主総会でAを甲社の取締役に就任させる予定である旨を伝え,「いずれ社長になる身として,従業員や取引先の手前,多少の株を持っておく必要がある。金のことは心配しなくていい。」と述べたが,それ以上のやり取りはされなかった。そして,前記8の定時株主総会において,Aを取締役に選任するとともに,本件株式をAに発行する旨の決議がされたが,本件株式の発行に必要な事務手続は,Cの指示に基づいて,甲社の総務部が進め,株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印もAが甲社に預けていた印章を用いて総務部が行った。また,払込金額である2000万円は,全てCの貯金によって賄われた。
10.本件株式に係る剰余金配当は,C名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれており,これらの剰余金配当についてはCの所得としてCのみが確定申告をしていた。A及びC宛ての株主総会の招集通知等は,Cの指示により,いずれも甲社の総務部に留め置かれ,本件株式に係る株主総会の議決権についても,甲社の総務部が,C名義の株式に係る議決権と併せて,会社提案に賛成するものとして事務処理がされた。Cは,平成27年6月に取締役を退任し,以後は,Aが代表取締役の地位にあったが,前記のような事務処理は継続された。
11.Cは,令和元年10月頃,本件連帯保証契約の件を耳にし,甲社の将来を憂慮するようになり,Aに対し,「君は,しばらく代表取締役を降りたほうがよい。次の定時株主総会で私が再び取締役に戻り,代表取締役として甲社の経営を仕切り直すから,そのように株主総会の準備を進めなさい。」と伝えたが,Aは,これに応じなかった。そこで,Cは,Aに対し,本件株式の株主の地位はCに帰属するものであると主張したが,Aは,本件株式の株主の地位はAに帰属すると主張して譲らなかった。
〔設問2〕 CがAに対して本件株式に係る株主の地位の確認を求める訴えを提起した場合に,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
12.AとCは,令和元年12月頃,①AがCに対して一定額の解決金を支払うこと,②本件株式はAに帰属することを確認することを内容とする和解契約を締結したが,甲社の経営をめぐる意見の対立は続いていた。この和解契約により,甲社の株主構成は,Aが10万株,Cが10万株,Dが20万株,丙社が10万株となった。
13.甲社においては,令和2年6月,Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件を議題とし(他の取締役の任期は満了していない。),Aを取締役に選任することを議案(以下「本件選任議案」という。)とする定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を招集することが取締役会において決定され,必要事項が記載された書面にて各株主に通知された。なお,甲社の定款には「株主は,当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として,その議決権を行使することができる。」旨の定めがある。
14.丙社(公開会社である取締役会設置会社であり,多数の株主が存在する。)の内規においては,総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使は,総務担当の代表取締役専務に委ねられていた。丙社の甲社への売上げが丙社の総売上げに占める割合は0.3%程度であり,丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の総資産に占める割合は0.1%程度であった。本件株主総会の招集通知には,例年と同様,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項について甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状用紙が同封されていた。そこで,丙社の総務担当の代表取締役専務であるEは,例年と同様,前記包括委任状用紙に必要事項を記載し,甲社に送った。
15.前記14の丙社の内規を知らないCは,この機会にAを甲社の経営から排除しようと考え,丙社の営業担当の代表取締役副社長であり,大学の同窓生であるFに相談し,本件株主総会において,Cを取締役に選任する旨の修正動議を提出してこれに賛成することを示し合わせた。Fは,Eがいつものように包括委任状を提出していることを知りながら,本件株主総会に出席することをCに約束した。
16.Dは,甲社の定時株主総会に毎年出席していたが,AとCがもめていることを知り,一方にのみ肩入れすることを避けるため,弁護士G(甲社の株主ではない。)に代わりに出席してもらうこととし,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項についてGに委任する旨の委任状を作成し,Gに交付した。
17.FとGは,本件株主総会の当日,受付担当者に対し,議場への入場を求めたところ,受付担当者は,株主名簿の記載,Fの名刺及び前記16のDのGに対する委任状を確認し,FとGを議場へ案内した。その後,A及びCが議場に入り,Aが議事を進めようとしたところ,Cは,「Aは,本件連帯保証契約について説明を果たす立場にもあるから,私が議長を務める。」との動議を提出した。Aは,本件連帯保証契約の件もあることから,ひとまず父親の顔を立てようと考え,動議に賛成し,ほかに異論もなく,Cが議長となった。
18.議長となったCは,「Gには出席資格がない。」と述べるとともに,「Fには丙社代表者としての出席を認めます。」と述べた。これらに対し,AとGが異論を唱えたが,Cが取り合わなかったため,Gは,仕方なく退場した。Cが議事を進めると,Fは,本件選任議案に対する修正動議として,Cを取締役に選任する旨の議案(以下「本件修正議案」という。)を提出した。これを受けて,Cは,「取締役1名の選任が議題となっているので,候補者ごとに採決をするのではなく,取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決をすることとしたい。」と提案したところ,誰も異論を唱えなかった。そこで,Cがあらかじめ用意した投票用紙と投票箱により投票が実施された。
各株主の議決権の行使状況は,次のとおりであった。すなわち,Aは,Aの議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をするとともに,丙社の代理人として丙社の議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Aによる投票」欄参照。)。Cは,Cの議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした。Gは,退場したため,Dの代理人としてDの議決権について投票することはできなかった。Fは,丙社の代表取締役副社長として丙社の議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Fによる投票」欄参照。)。
株主の氏名又は名称 A C D 丙社議決権の数(万個) 10 10 20 10取締役として選任すべき A C Aによる投票 Fによる投票者として記載した氏名 A C19.投票用紙の集計後,Cは,丙社の議決権の行使については,Fによる投票が有効であり,Aによる投票が無効であることを前提に,Cが取締役として選任された旨を宣言して(以下「本件決議」という。),本件株主総会を閉会した。
20.Fが,丙社の代表者として,本件株主総会に出席した上で本件修正議案を提出して議決権を行使したことは,独断によるものであった。また,AもCも,前記14の内規の存在を知らなかった。
〔設問3〕 Aは,令和2年7月,本件株式の株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起したいと考えているが,本件決議の効力を争うためにAの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
出題の趣旨・AI採点はスタンダードプラン会員向けです。
料金プランを見る