司法試験 平成28年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:3:3.5〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,取締役会及び監査役を置いている。甲社の定款には取締役は3名以上とする旨の定めがあるところ,A,Bほか4名の計6名が取締役として選任され,Aが代表取締役社長として,Bが代表取締役専務として,それぞれ選定されている。また,甲社の定款には,取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする旨の定めがある。甲社の監査役は,1名である。
甲社は種類株式発行会社ではなく,その定款には,譲渡による甲社の株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定めがある。甲社の発行済株式及び総株主の議決権のいずれも,25%はAが,20%はBが,それぞれ保有している。
2.甲社は建設業を営んでいたが,甲社においては,Aが事業の拡大のために海外展開を行う旨を主張する一方で,Bが事業の海外展開を行うリスクを懸念し,Aの主張に反対しており,AとBが次第に対立を深めていった。Aは,事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を行い,その調査結果に基づき,事業の海外展開を行うリスクも適切に評価して,取締役会において,事業の拡大のために海外展開を行う旨の議案を提出した。この議案については,Bが反対したものの,賛成多数により可決された。
甲社はこの取締役会の決定に基づき事業の海外展開をしたが,この海外事業は売上げが伸びずに低迷し,甲社は3年余りでこの海外事業から撤退した。
3.この間にAと更に対立を深めていたBは,取締役会においてAを代表取締役から解職することを企て,Aには内密に,Aの解職に賛成するように他の取締役に根回しをし,Bを含めてAの解職に賛成する取締役を3名確保することができた。甲社の取締役会を招集する取締役については定款及び取締役会のいずれでも定められていなかったことから,Bは,Aの海外出張中を見計らって臨時取締役会を開催し,Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出することとした。
4.Bは,Aが海外出張に出発したことから,臨時取締役会の日の1週間前にAを除く各取締役及び監査役に対して取締役会の招集通知を発した。この招集通知には,取締役会の日時及び場所については記載されていたが,取締役会の目的である事項については記載されていなかった。
Aの海外出張中に, Aを除く各取締役及び監査役が出席し, 臨時取締役会が開催された。 Bは,この臨時取締役会において,議長に選任され,Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出した。この議案については,賛成3名,反対2名の賛成多数により可決された。
5.Aが,海外出張から帰国し,Aを代表取締役から解職する旨の臨時取締役会の決議の効力を強硬に争っていたところ,臨時取締役会の決議においてAの解職に反対した取締役のうちの一人が,甲社の内紛に嫌気がさし,取締役を辞任した。そこで,Bは,各取締役及び監査役の全員が出席する定例取締役会であっても,Aの解職の決議をすることができる状況にあると考え,解職を争っていたAを含む各取締役及び監査役の全員が出席した定例取締役会において,念のため,再度,Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出した。この議案については,賛成多数により可決された。また,甲社においては,取締役の報酬等の額について,株主総会の決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で,取締役会の決議によって役職ごとに一定額が定められ,これに従った運用がされていた。この運用に従えば,Aの報酬の額は,月額50万円となるところ,Bは,この定例取締役会において,Aの解職に関する議案に続けて,解職されたAの報酬の額を従前の代表取締役としての月額150万円から月額20万円に減額する旨の議案も提出した。この議案についても,賛成多数により可決された。この定例取締役会において,BがAの後任の代表取締役社長として選定された。
〔設問1〕
⑴ Aを代表取締役から解職する旨の上記4の臨時取締役会の決議の効力について, 論じなさい。
⑵ Aの報酬の額を減額する旨の上記5の定例取締役会の決議の後,Aは,甲社に対し,月額幾らの報酬を請求することができるかについ て,論じなさい。なお,Aが代表取締役から解職されたことを前提とする。
6.代表取締役から解職されたAは,甲社の株主として,定時株主総会において,Aの解職に賛成したBら3名を取締役から解任しようと考え,Bら3名の取締役の解任及びその後任の取締役の選任をいずれも株主総会の目的とすることを請求するとともに,これらに関する議案の要領をいずれも定時株主総会の招集通知に記載するように請求した。
甲社の定時株主総会の招集通知には,会社提案として,海外事業の失敗を理由とするAの取締役の解任に関する議案が,Aの株主提案として,上記Bら3名の取締役の解任に関する議案及びその後任の取締役の選任に関する議案が,それぞれ記載されていた。
7.甲社の定時株主総会においては,Aの取締役の解任に関する議案は可決され,上記Bら3名の取締役の解任に関する議案及びその後任の取締役の選任に関する議案はいずれも否決された。
なお,Aの取締役としての任期は,8年残っていた。
〔設問2〕
⑴ 上記7の定時株主総会において取締役から解任されたAが,甲社に対し,解任が不当であると主張し,損害賠償請求をした場合におけ る甲社のAに対する会社法上の損害賠償責任について,論じなさい。
⑵ 仮に,上記6の定時株主総会の招集通知が発せられた後,Aが多額の会社資金を流用していたことが明らかとなったことから,Aが, Aの取締役の解任に関する議案が可決されることを恐れ,旧知の仲である甲社の株主数名に 対し,定時株主総会を欠席するように要請し,その結果,定時株主総会が,定足数を満たさ ず,流会となったとする。この場合において,①Bが,甲社の株主として,訴えをもってA の取締役の解任を請求する際の手続について,説明した上で,②この訴えに関して考えられる会社法上の問題点について,論じなさい。
8.甲社は,内紛が解決した後,順調に業績が伸び,複数回の組織再編を経て,会社法上の公開会社となり,金融商品取引所にその発行する株式を上場した。現在,甲社の資本金の額は20億円で,従業員数は3000名を超え,甲社は監査役会及び会計監査人を置いており,Cが代表取締役社長を,Dが取締役副社長を,それぞれ務めている。
9.甲社の取締役会は「内部統制システム構築の基本方針」を決定しており,甲社は,これに従い,法務・コンプライアンス部門を設け,Dが同部門を担当している。また,甲社は,内部通報制度を設けたり,役員及び従業員向けのコンプライアンス研修を定期的に実施するなどして,法令遵守に向けた取組を実施している。さらに,甲社は,現在,総合建設業を営んでいるところ,下請業者との癒着を防止するため,同規模かつ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定しており,これに従った体制を整備し,運用している。
10.甲社の内部通報制度の担当者は,平成27年3月末に,甲社の営業部長を務めるEが下請業者である乙株式会社(以下「乙社」という。)の代表取締役を務めるFと謀り,甲社が乙社に対して発注した下請工事(以下「本件下請工事」という。)の代金を水増しした上で,本件下請工事の代金の一部を着服しようとしているとの甲社の従業員の実名による通報(以下「本件通報」
という。)があった旨をDに報告した。ところが,その報告 を受けたDは,こ れまで,甲社において,そのような不正行為が生じたことがなかったこと,会計監査人からもそのような不正行為をうかがわせる指摘を受けたことがなかったこと,EがDの後任の営業部長であり,かつて直属の部下であったEに信頼を置いていたことから,本件通報には信ぴょう性がないと考え,本件下請工事や本件通報については,法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示せず,Cを含む他の取締役及び監査役にも知らせなかった。
11.甲社の内部通報制度の担当者は,その後,Dから,法務・コンプライアンス部門に対し,本件下請工事や本件通報についての調査の指示がなかったことから,平成27年5月に,本件通報があった旨をCにも報告した。その報告を受けたCは,直ちに,本件下請工事や本件通報について,法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示した。
12.甲社の法務・コンプライアンス部門が調査をした結果,2週間程度で,以下のとおり,EとFが謀り,本件下請工事について不正行為をしていたことが判明した。
⑴ EとFは,本件下請工事について,合理的な代金が1億5000万円であることを理解していたにもかかわらず,代金を5000万円 水増しして,2億円と偽り,水増しした5000万円を後に二人で着服することをあらかじめ合意していた。
⑵ 甲社の社内規則上,甲社が発注する下請工事の代金が1億円以上となると,複数社から見積りを取得する必要が生じることから,Eが ,Fに対し,本件下請工事について,形式上,工事を三つに分割して見積書を3通作成する ことを指示し,乙社は,①第一工事の代金を8000万円,②第二工事の代金を5000万 円,③第三工事の代金を7000万円として,本件下請工事について代金が合計2億円となるように3通の見積書を作成し,甲社に提出した。
⑶ Eは,甲社の関係部署を巧妙に欺き,3通の見積書がそれぞれ別工事に関わるものであると誤信させた。これにより,甲社は,平成2 6年9月に,乙社との間で,上記の各見積書に基づき3通の注文書と注文請書を取り交わし た上で,以後,乙社に対し,毎月末の出来高に応じて翌月末に本件下請工事の代金を支払っていった。
⑷ 甲社は,本件下請工事が完成したことから,乙社に対し,平成27年4月末に残金合計3000万円を支払い,その後,EとFが,甲 社が乙社に対して支払った本件下請工事の代金から5000万円を着服した。
⑸ 甲社の会計監査人は,平成27年1月に,乙社に対し,甲社の平成26年12月期の事業年度の計算書類及びその附属明細書等の監査 のために,本件下請工事の代金の残高についての照会書面を直接郵送し,回答書面の直接返 送を求める方法で監査を行ったが,Eは,Fに対し,回答書面にEが指定した金額を記載し て返送するように指示をするなど,不正が発覚することを防止するための偽装工作を行っていた。
〔設問3〕 上記8から12までを前提として,①Cの甲社に対する会社法上の損害賠償責任及び②Dの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について,それぞれ論じなさい。
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