司法試験 平成30年 民法
問題文
[民事系科目]〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,40:35:25〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。
Ⅰ
【事実】1.Aは,トラック1台(以下「甲トラック」という。)を使って,青果物を生産者から買い受け,小売業者や飲食店に販売する事業を個人で営んでいた。
2.平成29年9月10日,Aは,Bとの間で,松茸(まつたけ)5キログラムを代金50万円でBから購入する契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約においては,松茸の引渡しは,同月21日の夜に,Bのりんご農園のそばにあるB所有の乙倉庫において,代金の支払と引換えですることが定められた。
3.同月21日午前11時頃から午後2時頃にかけて,Bは,本件売買契約の目的物とするための松茸を秋の収穫期に毎年雇っているCと共に収穫し,これを乙倉庫に運び入れ,同日午後4時頃には,本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めを終えた。そこで,Bは,直ちに,引渡準備が整った旨をAに電話で連絡したところ,Aは同日午後8時頃に乙倉庫で引き取る旨を述べ,Bはこれを了承した。
4.同日午後6時頃,Aが松茸を引き取るため甲トラックで出掛けようとしたところ,自宅前に駐車していた甲トラックがなくなっていた。
Aがすぐに電話で事情と共に松茸の引取りが遅れる旨をBに伝えたところ,Bからは,しばらく待機している旨の返答があった。Aは,自宅周辺で甲トラックを探したが見付からなかった。そこで,Aは,同日午後8時頃,今日は引取りには行けないが,具体的なことは翌朝に改めて連絡する旨を電話でBに伝えた。
5.Bは,Aからのこの電話を受けて,引渡しに備えて乙倉庫で待機させていたCに引き上げてよい旨を伝えた。その際,Bは,近隣で農作物の盗難が相次いでおり警察からの注意喚起もあったことから,Cに対し,客に引き渡す高価な松茸を入れているので乙倉庫を離れるときには普段よりもしっかり施錠するよう指示した。乙倉庫は普段簡易な錠で施錠されているだけであったが,Cは,Bの指示に従って,強力な倉庫錠も利用し,二重に施錠して帰宅した。
6.同月22日午前7時頃,Aは,Bに,車を調達することができたので同日午前10時頃に松茸を乙倉庫で引き取りたい旨を電話で伝えた。Bは朝の作業をCに任せて自宅にいたため,Aが車でまずBの自宅に寄り,Bを同乗させて乙倉庫に行くことになった。
7.Aは,代金としてBに支払う50万円を持参して,同日午前10時過ぎに,Bと共に乙倉庫に到着した。ところが,乙倉庫は,扉が開け放しになっており,収穫した農作物はなくなっていた。
8.警察の捜査により,収穫作業道具を取り出すため乙倉庫に入ったCが,同日午前7時頃,同月21日の夜にBから受けた指示(【事実】5参照)をうっかり忘れて,りんご農園での作業のため普段どおり簡易な錠のみで施錠して乙倉庫を離れたこと,その時から同月22日の午前10時過ぎにAとBが乙倉庫に到着するまでの間に何者かがその錠を壊し,乙倉庫内の松茸,りんごなどの農作物を全部盗み去ったことが判明した。
9.その後,Bは,Aに対し,本件売買契約の代金50万円の支払を求めたが,Aは,Bが松茸5キログラムを引き渡すまで代金は支払わないと述べた。これに対し,Bは,一度きちんと松茸を用意したのだから応じられないと反論した。
〔設問1〕
【事実】1から9までを前提として,【事実】9のBの本件売買契約に基づく代金支払請求は認められるか,理由を付して解答しなさい。
Ⅱ 【事実】1から9までに加え,以下の【事実】10から14までの経緯があった。
【事実】10.甲トラックは,Aが次の経緯でDから入手したものであった。
平成27年11月9日,AとDは,Dが所有する中古トラックである甲トラック(道路運送車両法第5条第1項(関連条文後掲)が適用される自動車である。)を目的物とし,代金額を300万円とする売買契約を締結した。この売買契約においては,次のことが定められていた。
①Aは,代金の支払として,甲トラックの引渡しと引換えにDに対し内金60万円を現金で支払い,以後60か月の間,毎月4万円をDの指定する銀行口座に振り込んで支払う。②甲トラックの所有権は,Aが①の代金債務を完済するまでその担保としてDに留保されることとし,その自動車登録名義は,Aが代金債務を完済したときにDからAへと移転させる。③Aは,①の振込みを1回でも怠ったときは代金残債務について当然に期限の利益を喪失し,Dは,直ちに甲トラックの返還を求めることができる。④Aは,Dから甲トラックの引渡しを受けた後,甲トラックを占有し利用することができるが,代金債務の完済まで,甲トラックを善良な管理者の注意をもって管理し,甲トラックの改造をしない。⑤Dが③によりAから甲トラックの返還を受けたときは,これを中古自動車販売業者に売却し,その売却額をもってAの代金債務の弁済に充当する。⑥Dは,⑤の充当後に売却額に残額があるときは,これをAに支払う。
同日,AはDに対し内金60万円を支払い,DはAに対し甲トラックを引き渡した。
11.Aは,同年12月以降毎月,遅滞することなく,Dが指定した銀行口座に4万円を振り込んで代金を支払っている。
12.Aは,甲トラックの消失後(【事実】4参照),レンタカーを借りて事業を続けていたが,廃業して帰郷することにし,平成29年12月22日,居住していた借家を引き払った。Aは,Bら取引先等に廃業の通知を出したものの,転居先を知らせることはしなかった。
13.平成30年2月20日,Eは,その所有する丙土地(山林)の上に,甲トラックが投棄されているのを見付けた。その後,Eは,甲トラックがD名義で自動車登録されていることを知った。
14.同年3月10日,Eは,Dに,甲トラックが丙土地上に放置されている事実を伝え,甲トラックの撤去を求めた。ところが,Dは,㋐「Aとの間で所有権留保売買契約をしたので,私は甲トラックを撤去すべき立場にない。その立場にあるのは,Aである。」,㋑「登録名義はまだ私にあるが,そうであるからといって,私が甲トラックの撤去を求められることにはならない。」
と述べ,応じなかった。EがDにAの所在を尋ねたところ,Dは,Aの所在は知らないと述べた。また,Dによれば,甲トラックの盗難の事実と警察に盗難を届け出た旨の知らせが平成29年9月22日にAからあったが,銀行口座にはAから毎月4万円の振込みが滞りなくされていたこともあり,Aとの間で互いに連絡をすることがなかったとのことであった。
その後も,Eは,Aの所在を把握することができないままでいる。
〔設問2〕
【事実】1から14までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。
⑴ Eの【事実】14の撤去の請求に関し,【事実】14の下線を付した㋐のDの発言は正当であると認められるか,理由を付して解答しなさい。
⑵ 仮に㋐のDの発言が正当であると認められるものとした場合,Eの請求は認められるか,【事実】14の下線を付した㋑のDの発言を踏まえつつ,理由を付して解答しなさい。
(参照条文)道路運送車両法(昭和26年法律第185号)
第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は,登録を受けなければ,第三者に対抗することができない。
2 (略)
Ⅲ 【事実】1から14までに加え,以下の【事実】15から20までの経緯があった。
【事実】15.数年前に妻に先立たれたCは,持病が悪化して,平成30年1月20日,死亡した。
16.Cは,積極財産として,それぞれの金額が1200万円,600万円及び200万円の定期預金を残した。Cには,3人の子F,G及びHがいたが,Hについては,Cが家庭裁判所に廃除の申立てをしており,それを認める審判が平成27年に確定していた。
17.平成30年1月21日,Cの通夜の席で,CがBに対し同月31日を期限とする300万円の借入金債務を負っていたことが判明した。
18.Fは,Cが負っていた借入金債務全額の返済をBから強く求められたため,同月31日,Bに対し300万円を支払った。
19.同年3月1日,同年1月1日付けのCの適式な自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)
があることが判明し,同年5月7日,検認の手続がされた。
20.本件遺言の証書には,「①私が残す財産は,1200万円,600万円及び200万円の定期預金である。②遠方に住みながらいつも気にかけてくれたFには,Gよりも多く,1200万円の定期預金を相続させる。③Gには600万円の定期預金を相続させる。④Hは,まだ反省が足りないので,廃除の意思を変えるものではないが,最近結婚をしたことから,200万円の定期預金のみを与える。」と記されていた。
〔設問3〕
【事実】1から20までを前提として,次の問いに答えなさい。
Fは,CがBに対して負っていた借入金債務300万円を全額支払ったことを根拠に,Gに対し,幾らの金額の支払を請求することができるか。本件遺言について,遺言の解釈をした上で,理由を付して解答しなさい。なお,利息及び遅延損害金を考慮する必要はない。
出題の趣旨・AI採点はスタンダードプラン会員向けです。
料金プランを見る